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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第五章「一人の世界 一つの家族」
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「一人の世界 一つの家族」part4

「俺が考えるにですけど、さっきの様子を見た感じ三人を送り返すっていうのは冗談のつもりだったんじゃないですか?」


 我が家のリビングで、正座した泥まみれの神様がスンスン泣きながら首を縦に振る。何度も何度も。

 全身泥だらけでボロボロの老人が大泣きしている様は見ていて辛いものがある。

 威厳も何もあったもんじゃない。


「三人は勝手に返されちゃ困ると、神様を、その、討ち取ろうとしたわけだ」

「そうだ」

「オリサさんから先程相談を受けまして。こんなこともあろうかとわたくしが作戦を練りました。戦闘の合図もお二人に伝わり良かったです」

「ぶっつけ本番でもなんとか上手く進められたよ。リーフちゃんがエルフ語で『魔法使い(Istar)』って言ったらあたしの風で神様を外に出すの。矢が決め手にならないときはルルちゃんが相手の気を引いてリーフちゃんが忍び寄る。さっすがリーフちゃんだよね!」


 とりあえず、正座で並ぶ三人娘の頭頂部に拳骨を見舞った。


「の、脳が揺れます」

「やるなトール」

「いっだぁ!」

「家ぶっ壊してんじゃねぇよバァァァカ!!何を抜群のコンビネーションでスプラッター見せようとしてくれてんだアホ!神様死んだらこの世界なくなるんだぞ、このタコ!」

「あたし、タコじゃなくて魔法使いだよ?かわいいオリサちゃんだよ?」

「そういうのいいから!あー、神様、結局、さっきの話ですけど、だれが質問したんだっけ?俺の家族とか、もともとこの世界に居た人たちとか、みんなが帰ってくる可能性ってあるんですか?あと、彼女達が元の世界に強制送還される可能性も」

「わし、喋っていいの?」

「いいですから、教えてください」


 疲れた。横になりたい。



 ・・・・・・・・・・・・



 その後、三人娘を恐る恐る横目で見ながら神様が話したところによると、元いた地球人達が戻ることはないということだった。元々が大勢の神様が偶然引き起こした事故のようなものなので、この神様一人では再転移など困難らしい。

 そのため今は世界中の電気や水、食料品の維持に力を使っているのだとか。その点は素直に感謝しよう。

 オリサ達を送り返すのもメリットがない上にいたずらに体力を使うだけなのでやらないそうだ。まずは俺が生きていなければならないので、俺にとって不都合なことはしないとのこと。三人を呼び寄せるとき他の世界の神様たちが力を貸してくれたけどこの神様の体力もだいぶ消費してしまったので、今後、体力が回復してきたら何か力を貸してくれると言ってくれた。

 たったこれだけのことを聞き出すのに家を半壊させられる大きな代償を払わされたわけだ。疲れた。とにかく、今俺が抱えているストレスをどうにかしなければ。改めて我が家のリビングを見渡す。素人目に見ても、俺達四人で修理なんてできっこないのは明らかだ。愛すべき我が家が……。


「お前ら……派手に暴れてくれたなぁ」

「ごめん。あたし、トール達とずっとこの世界にいたかったから、つい」

「悪かった。わたしも……みんなと別れたくなかったんだ」

「申し訳ございません。あのような草ばかり食べている世界に帰るなど我慢ならず……」


 戦端(せんたん)を開いた肉食系エルフだけ思想が違うけど、まあ悪気があったわけではないし。


「まあ、俺もみんなと別れるのは絶対嫌だけどさ。家どうすっかなぁ」


 猛烈に風通しの良くなったリビングに身を投げ出し、仰向けで寝転がって独り言を続ける。ここからは俺の演技力が物を言うはずだ。


「まいったなー、このままじゃおれ、すとれすでしんじゃうなー。あー、まいったー。すごいちからをもっててあっというまにいえをなおしてくれるすごいひと、どこかにいないかなー。いるわけないよなー。あー、おれはここまでなのかー。たった十八年間の短い人生だった。あぁ……風が吹いてる。寒い、寒いよ……」

「もういいわい!わしに直させようとしとるのはわかっとる!仕方ない、わしがあそこでふざけたのが理由じゃからな」

「あざっす!丁度いい機会なんで、部屋も広く作り直してくださいよ。あと、天井と扉も高めにお願いします。部屋を移動する度にリーフがドアの枠に頭ぶつけそうなのが心配なんすよ」

「お主は……、まあいい。ストレスなく暮らすのも大切だからな」

「みんな!何かほしい部屋とか設備があれば今のうちにリクエストしとけ。自動給餌器とかスプリンクラーとかあると今後泊りがけで出かけるとき楽だろ。あとキッチンを広くしたり、ルルに工房とかどうだ?ご希望の炉を作ったり、専門的なでっかいパソコン置いたりさ。あ、図書室作るのもいいかもな。あとは、リーフ、ワイン好きだろ?ワインセラーとかいいんじゃないか?それにチーズ工房とか。オリサ、欲しい物あるか?」

「過労死させる気か!」

「ああぁぁっ!家が壊れたショックと大声を出されたショックで心の臓が痛い。ああいたた……。オリサ、ごめんな。俺はもうダメみたいだ。仲良くしてくれてありがとうな……」


 右手でそばにいたオリサの手をとりながら、左手を大げさに胸に当て身体を丸める。こんなに弱って、なんて哀れな俺。

 タレントの映画吹き替えなど(かす)むほどに終始棒読みだけど。


「ト、トール!大丈夫!?リーフちゃん、どうしよう!トール!トール!」


 騙せた。思いの外純粋だな。こんなに心配されると申し訳なくなるのだが。


「押さえているのは右の胸ですが、この世界の人間族はわたくしの世界の方々と逆なのですね」

「どう贔屓目(ひいきめ)に見ても、雑な演技だろうが。心配する必要はないだろう。それと工房はしっかり作ってもらう」

「もう好きにしろ……。まずは家を直す。広めにだったな。その代わり、今夜は泊めてくれよ。メシと酒じゃ。腹いっぱい飲み食いしたい。そんでゆっくり休んで明日以降、何日かに分けて欲しいもん作ってやる」

「神様、この国には『居候三杯目にはそっと出し』という言葉があるそうだな」

「居候の身分で酒をガバガバ飲んどるお主にだけは言われとうないわ!」

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