「一人の世界 一つの家族」part2
「お主ら、さすがにそろそろ反応してくれてもいいんじゃないか?」
「神様、あえて無視してたんですから空気読んでくださいよ」
「神様、それはないわぁ」
「邪魔の神なのか?とんだ邪神だ」
気づいてはいたけど居ないものとして扱ってたのに。まあいいや、俺も用があったし。
「じゃあ神様の分も用意しますよ、仕方ないっすね。リーフ、ご飯ある?冷凍のでいいから。ありったけ持ってきて。あとデカい鍋。お茶づけ作って神様に出すから」
「話の流れで京都風に帰らせるな、まったく。お前さんが一人になってもう一月だろう。調子はどうかと思って様子を見に来たんじゃ。そしたらリーフしかおらんから、喧嘩でもしたのかと思ったわ。それで、年頃の娘を二人も連れた旅行はどうだったね」
「そうですね。激しくてビショビショでグッタリで、肌を重ねながらゆっくり休ませていただきました。行ってよかったです」
「なんと!詳しく教えなさい!オリサか?ルルか?」
オリサは必死に笑いを堪え、ルルは『馬鹿か』と言いたげな呆れ顔でこちらを見ている。
「三人で楽しみました」
「こいつは驚いた!よく頑張ったな」
「ええ、三人でプールやサウナで体力の限界まで遊んでました。豪快に飛び込んだりして。おかげでゆっくり寝ることができましたよ。そのとき、手をつないで寝たんです」
「なんだ、つまらん」
「とんだ助平爺だ。オリサ、魔法で吹きとばせ」
「はいはーい。『常盤色のオリサ』ちゃん、がんばりまーす!」
「皆さん楽しそうで何よりです」
「やめんかい!」
いいぞ、やってやれ、と言いたいが、色々聞きたいから飛ばすわけにはいかない。
「まあ待て待て、まだ飛ばすな。そろそろ真面目に話そうか。ちょうどお茶の用意もできたし。どうぞ。それで神様、ちょっと聞きたいんですけど、この世界のライフラインってどうなってるんですか?電気とか水とかネットは今も使えますよね。管理してる人はいないのに」
俺自身、何日か前に気づいたばかりなのだが、ヒミツにしておこう。
「言っとらんかったか?わしの偉大な力で維持しておるのよ」
「三人を召喚する前は歴史の謎について教えてもらってました。あ、そういや三億円事件の犯人、ああ、いや、今はいいや。とにかく、役に立ちそうな話は何もしてませんでしたよ」
歴史の謎が聞けるなら聞きたいけど、今はそんな話は後回しだ。
「彼女たちを呼んだ後は?」
「自己紹介が済んだら、神様さっさと消えちゃったじゃないですか」
「ああ、そうだそうだ。コソコソと間抜けな質問もしていたな。年頃じゃな」
そういうのは思い出さなくていいのに。
「神様、それ以上は。あのときの話はトールさんも恥ずかしそうにしておりましたので」
なぜ話の内容を知っている。
「リーフ、俺がいないときに神様に聞いたの?」
「いえ、盗み聞きをするつもりは無かったのですが、何分、わたくしは耳が良いもので。雨の中の話し声さえも聞くことができるのです。トールさんの『産めよ、増えよ、地に満ちよ的な感じ』というお話も苦もなく聞けてしまいました。すみません」
もうやだ、恥ずかしすぎる。
「ああ、ご安心ください。ルルさんとオリサさんには話しておりませんので」
「なるほど。わたし達とトールは種族が違うから子供ができないという話だな」
やめろぉぉぉ!
「男って本当にバカだねぇ」
バカなのは認めるから、具体的に言わないでくれ。リーフもちょっとバラしてたし。
「もうやだ……」
両手で顔を覆いながら精一杯の声を振り絞った。顔が熱い。多分かなり赤くなってる。
もしかして、リーフはあのやり取りを聞いていたから、大きな風呂に入りたい、大きなベッドで寝たい=一緒に入りたい、一緒に寝たいという推理をしたのだろうか。恥ずかしい。
あれ?今までリーフに聞こえないようにオリサと話したことも一通り聞かれてたのかな?それならリーフはリーフで気づかないふりをしていたと?これからは変な話できないな……。
「それで、神様。電気・水・ガス・インターネット等はこれからもずっと使い続けられるのか?」
「ああ、そうじゃよ。電気がない世界からやってきたお前さんにはわかりにくいかもしれんけどな、電気というのは簡単に言えば大きな工房があり、そこで作ったら外にあるあの線を使ってここまで届いているわけじゃが」
「発電所で作って変電所へ送り昇圧後、電線を通って各家庭に送られているのだろう」
「せっかくわかりやすく噛み砕いて解説してやったものを……。まあとにかく、こういった施設は人間が動かしていたわけじゃ。だが動かすものがおらん。それでも電気は通っている。それはひとえにわしの力じゃ。厳密には電気が今も作られているわけではない。電気も水も電波も使えるようにしてある。わしがそう決めた。だから使える。安心せい、請求書を送ったりはせん」
『決めた。だから使える』っておかしくないか。
「『決めた』とはどういうことなんだ?」
ルルも困惑しているようだ。
「そのままの意味じゃ。わしが決めたから、電気も水もいくらでも供給される。感謝するんじゃよ」
「『質量保存の法則』を完全に無視している……」
「だってわし神様だし~。ああ、そうそう、スーパーとかコンビニの中も時間を止めてしまったから、肉も野菜も魚もいつまでも鮮度が落ちずに食べられるぞ。これはもう気づいておったかもしれんがな」
確かに、冬だから傷みにくいなんてもんじゃないぐらいにいろいろな食品がそのままだとは思っていた。正直まだ食べられそうとか思っていたけど、それで腹を壊したら目も当てられないので控えていたわけだが、そもそも神様が教えてくれていたら楽だったのに。
「とにかく、ある程度の生活は以前通りなわけですね。とんでもなく俺に都合のいい環境ですが、本当に助かります」
「ま、お前さんに死なれては困るからな。特別に神様からの思し召しじゃ。言い忘れてすまんかったな。厩舎を作ったときに言ってやりゃよかった」
「神様、発電所は動いているのか?」
「あっちは止めちまった。動かす必要ないし、地球温暖化対策にもなるかもな」
「なるほど」