「一人の世界 一つの家族」part1
「ひゃあああぁぁぁっ!?」
「ルルッ!?」
「ルルちゃん!大丈夫!?」
「ああ、またやってしまいましたか……」
自宅に到着し、三人で荷物を下ろしていたが突然ルルが悲鳴を上げて崩れ落ちた。何事かとオリサと共にルルに近づいたところ、ルルの足元には血まみれで頭のない鶏が転がっている。なるほど、理解した。
へたり込んだルルの傍らにしゃがみ手を握る。こんなに早く約束を果たすとは思わなかった。
「す、すまんな」
「おう。リーフ、ただいま」
「みなさん、おかえりなさいませ。すみません、ちょうどスモークチキン作りを始めたところだったのですが……」
「だ、大丈夫だオリサ。今回は意識を保っている。か、帰ったぞ、リーフ」
「リーフちゃん、ただいま!えっと、これだ。はい、ルルちゃん」
そう言ってオリサはルルの荷物からウイスキーの瓶を取り出し、蓋を取って渡した。ルルはそれを受け取るなり一心不乱に飲み出す。かなり動揺しているな。
「はぁはぁ、ありがとうオリサ。なぜ遠出して帰ると毎度毎度鶏の解体現場に出くわすんだ。足になにかぶつかったと思って見たら足元が真っ赤で……」
「すみません、ルルさん」
「いいんだ、だれも悪くない。目線を下げ始めた段階で感づいたがそのまま見てしまった」
「なんとも楽しそうに過ごしているようで何よりじゃ。今の悲鳴は驚いたが」
「ルルが外出、リーフは留守番ってパターンはルルが毎回酷い目に遭うよな」
「だれも狙ってないのになんなんだろうね。これで、えーっと、四回目だもん」
「はい、不思議この上ないことです」
「まあいいさ、荷物を家に運んで休もう。リーフ、久しぶりにお前の料理で酒が飲みたい」
「そいつは名案じゃな。わしもいただくとしよう」
「光栄です!お任せください」
ああ、これがいまの俺の家族だ。帰ってきたんだ。この日常に。
「あの、リーフ。ちょっと手を握っていいかな。あーいや、ごめん、なんでもない。後で頼むね。それじゃ」
「はい?これはただの鶏の血ですから、洗えばすぐ落ちますよ?」
それが嫌なんだが伝わらない。リーフも相変わらずだ。
「とりあえず、リーフちゃんはお仕事終わらせたらいいんじゃないかな。あたしたちもお片付けあるし」
「はい、ではまた後ほど」
「ありがとな」
小声での呼びかけに笑顔とサムズアップで答えるオリサ。いつもの生活に戻ってきたな。
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「服は洗濯機に入れて回したよー」
「道中で手に入れた肉も冷蔵庫に入れた」
「酒に合いそうじゃったな」
「鞄もクローゼットに戻したし。よし、とりあえず片付け終わりだな」
ようやく一息つける。ああ、愛しの我が家だ。
「オリサ、さっき三人で何か話してたけど何かあったの?」
荷解きの途中、オリサがルルとリーフを呼び、何か話しているのを見た。
「ちょっと大事なことをね。迷惑はかけないつもりだから、大丈夫」
俺抜きの相談なのであまり詮索してはいけないか。とりあえずはその言葉を信じよう。
「お待たせしました。あとは燻製が終わるのを待つだけです」
これで家族が揃ったな。
「お疲れ様。お茶淹れるよ。ルルはそのウイスキー飲むのか?オリサはココアだよな?」
「いや、みんなで一緒に同じものを飲みたい」
「あたしも~」
「わしも~」
「わかった」
だめだ、みんなと居られることが嬉しくて、口元がにやけてしまう。
「あ、そうだ。ルルちゃんが帰ったときにビックリしない方法考えた」
「ほう、どんなだ?」
「リーフちゃんが鶏の解体を始める前に、物干し竿に黄色いハンカチをぶら下げておくの」
「おい」
「有名な映画とは言え、異世界から来たオリサがよく知っとるの」
「ハンカチが出てたらルルちゃんは引き返して時間をつぶす。出てなければ安全だから帰れる。どう?」
「黄色のハンカチがありませんから、こちらの赤い布でもよろしいでしょうか」
「そのどす黒い布は動物の返り血を拭いた手ぬぐいだよな……」
鮮度抜群の真新しい血も付いているから、確かに赤い布ではあるけど。
「いいね!やってみよう」
「トール、言ってやれ」
「頼むから俺の好きな映画を血に染めないでくれ」
まったく、最近いろいろ映画を見て仕入れた知識をおかしなことに使わないでほしい。
この章は本来エピローグとして書いたものに加筆・修正したものです。
そのため物語をまとめるような流れになっていますが、その後のお話も執筆中なので今後とも応援よろしくお願いいたします。
「最終章じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ」
まだガンガン続けるつもりです。
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元ネタ集
・「物干し竿に黄色いハンカチをぶら下げておくの」
高倉健主演、山田洋次監督の映画「幸福の黄色いハンカチ」(1977)より。