「手をとりあって」part24
「目が覚めてとりあえずこの部屋に戻ってみたものの、トールは寝ているしオリサは起きていたがトールを起こさないように動かないしで暇だったぞ。ずっとそこのソファーで読書をしていた」
オリサと共にベッドに寝転んだままルルの話を聞く。
あれ、ということは一連のやり取りを……?
「一通りご覧になった?」
「さて、それはどうだろう?一通りかどうかわからんが、オリサが傍にいてくれて嬉しいのだろう?それに、オリサの水着姿も良かったと。その後言ったことは……ふふ。更にはずいぶん愛おしそうにオリサを撫でていたな。いい話が聞けたので朝から一杯やりたい気分だ。口の中が甘くてたまらんから、ウイスキーが合いそうだな。それかかなり辛口の日本酒か。ふふふ」
泣きそう。
「念の為用意しておいた。大事に使え」
そう言って俺の手に何やら平たい物体が押し込まれた。四角い包装の中にリング状の物体が入ったこの感触、容易に見当がつく。故に見たくない。どう考えてもアレだ。渋々自分が握っているものに目を向けると、それは案の定この建物の全ての部屋に備わっているであろう『ゴム製品』だった。
「もうやだ……」
手の中の物体を力なくルルに投げ返す。丈にだいぶ余裕のあるルルのバスローブにぶつかり、その物体が床に落ちる。
「トールちゃん、顔赤いわねぇ。どーしたのかしら?あたしが目を覚ましたとき、ちょうどルルちゃんが部屋に入ってきたんだ。あたしはもう少しこのままでいるって言ってまた目を閉じたけど、そのあと少ししたらトールが頭撫でてくれてさぁ。気持ちよかったからまたやってね。へへへ」
「ふふ。こいつの出番はなさそうか」
俺が捨てたゴム製品を拾いながらルルが笑う。
「そうね。まあ、俺たちって種族が違うからそもそも子供できないらしいけどさ」
神様がそんなことを言っていた。
今回はこいつの出番はなかったが、念の為持って帰ろうかな。経験がない以上、病気は持っていないはずだけど相手が大切なら使うべきだ。俺は初めてで余裕がなくても紳士でありたいと常々思っているわけだし。
って、そうじゃない。そういうことをする予定もないし、相手もいない。
「ああ、わたしにとっては常識だ。だが、人間族しか居なかった世界のお前になぜそんな知識がある?」
やっべぇ。
「あの、朝飯に……しようか……」
それだけ言うのが精一杯だった。
「神様に確認したのだな」
「トール、バッカだねぇ」
まったくその通り。