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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第四章 「手をとりあって」
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「手をとりあって」part23

 身体が軽い。昨日までの寝起きの倦怠感が嘘のように、頭も身体も驚くほどスッキリしている。感覚はそうなのだが、動きにくい、そう思い目を開けたら互いの鼻先が触れそうなほどすぐ近くにオリサの寝顔があった。そうか、俺はオリサに抱きついて寝ていたのか。疲れ切っていたとはいえ、思い切ったことをしたもんだ。

 ゆっくり寝息を立てるオリサを眺める。今更だけどかわいいな。頭撫でてもいいかな。いいよな、既に抱き枕にしちゃったし。この期に及んで怒られたりしないだろう。

 掌をそっとオリサの小さな頭に乗せ移動させる。寝ている間に乱れた髪を整えるように、ゆっくりと柔らかい黒髪を撫でる。


「オリサ……ありがとう」


 起こさないよう注意しながら、(ささや)くような声で話しかけた。

 他に何か言いたいことあるかな。いい機会だから日頃の感謝を伝えておこう。起きてるときだと絶対に茶化されるから言い辛い。


「オリサ。いつも傍にいてくれてありがとう。本当に……いつも感謝してるよ。ありがとう」


 あとはなんだろう。ついでだし、アレも言っとくか。


「あの……、それから、ビキニ姿、サイコーに綺麗だった」


 頭を撫で続け、面と向かって言えなかった感想を打ち明けた。


「メチャクチャ可愛かった。一緒にいてドキドキしたし」


 恥ずかしい独り言だけど、段々饒舌になってきた自分がいる。


「ああ、でもまぁ、オリサがかわいいのは初めて会ったときからずっと思って、た、けど、さ、……え?」


 オリサの口角がゆっくり持ち上がった。あれ?え?もしかして?


「オリサ?あの……起きて……る?」

「寝てる。寝てるから聞いてないよ。他に言いたいことある?」


 おい、うそだろ!


「いつ……から?」


 どのタイミングで起きたのだろう。


「トールがすっごく優しく『よしよし』してくれる、しばらく前から」


 目を閉じたまま、楽しそうに答える。最初っからどころか先に起きていたらしい。


「マジか……マジで?」

「マジだ」


 まいったな。


「最っ悪だ……」

「続きはないの?」

「本日は……店じまいです」

「なーんだ。人生って思い通りにいかないよねぇ」


 そう言ってオリサはようやく目を開けた。いつもどおりの常盤色の瞳が楽しそうに俺を見つめる。


「知ってる」


 たぶん世界で一番強くそれを実感してるのが俺だ。


「ふふ。おはよ。気分は?」

「穴があったら入りたい。あと、寝る前に大泣きしたおかげでかなりスッキリ。その節は大変お世話になりました」


 これに関しては素直に礼を言おう。


「どういたしまして」

「あの、オリサ」

「ん?あ、待った。『ごめん』って言ったら今度こそ乳首を千切っちゃうけどなぁに?」

「え、あー、なんでも無いです」


 大泣きしたり抱きついて寝たり頭撫でたりを反射的に謝りそうになったが、先手を打たれた。お見通しらしい。


「まったく、しょうがないな。ね?手だして」


 言われるまま、オリサの頭に置いたままだった手を差し出した。それをオリサの両手が包み込む。


「今も怖い?」


 昨夜の話か。


「なんていうか……、今の俺の生活が夢だったらどうしようって思ってた。神様なんていない。オリサもルルもリーフも俺の夢の中の存在。世界はいつもどおりで俺は寝てるだけ。これは……夢。そんなこと考えて……、正直、今でもめちゃくちゃ怖い」

「あたしもだよ」

「え?」

「前に言ったよね。トールの世界に来る前、あたしも神様の話を夢だと思ったって。朝起きてトールもルルちゃんもリーフちゃんもいない、元の世界で目が覚めるかもしれない。考えただけで怖い……。だからトールの気持ちがわかるの。今も考えただけで泣いちゃいそう。だから手を握るんだ。君は一人じゃないって教えてあげたいから。あの日、あたしが泣いてるときに同じことをしてくれた人がいるからね。誰かが泣いていたら今度はあたしが手を握ってあげる」


 俺だけじゃなかったんだ。オリサも、きっとルルもリーフも、心のどこかに今の状況が信じられないという気持ちを持っているんだ。俺たちは同じだ。何の解決にもなっていないけど、同じであることがなんだかたまらなく嬉しい。


「そっか。俺たち同じ気持ちだったんだな」

「みたいだね。安心した?」

「ああ。ありがとう」

「どういたしまして。んで、わかった?」


 なんだいきなり。


「何が?」

「わかってないかぁ。がっかりっすわ。まぁ、トールはアホだからなぁ。珍バカだからなぁ。あたしが泣いてるとき、手を握ってくれた人が誰なのかホントにわかんない?」



 オリサが泣いているとき?

 例えば、泥だらけで農業大臣を辞任しようとしたとき?

 リーフが肉に興奮しすぎて狂ったように笑い声を上げたとき?



「え、俺?」

「そうだよ!なぁにが『元の世界の彼氏?』だよ!バーカ!バーカ!」


 そんなに影響を与えているなんて思わなかった。


「ごめんなさい」

「よろしい。もっとあたしたちを頼りなよ?あたしたちは家族みたいなもんでしょ?」


 家族……か。言われてみればそのとおりだ。今まで心のどこかでその言葉は避けていたように思う。妹を否定するような気がしてしまうから。

 だけどそうじゃない。ユリはもちろんずっと家族だけど、今はオリサも、ルルも、リーフも家族なんだ。


「ああ、間違いなく家族だ。ありがとうオリサ」

「うん、ありがとう、トール」

「ルルとリーフにも会いたくなってきたよ。二人の手を、握りたい」

「元気出てきた感じ?良かった良かった。さっすがあたしだね。ほら、もっと癒やしてあげるから」


 そう言ってオリサが手を広げて俺を待ち構える。


「いや、それは何ていうか恥ずかしいかな……」

「昨日は素直に抱きしめられたのに、反抗的だなぁ。無理しない!トールおっぱい大好きじゃん!あたしが水着着たとき、あんなに谷間をチラチラ見てたのにバレてないと思ってたの?ゆうべ泣いてたのも実は嬉し泣きでしょ?ホレホレ」


 必死に床見てたのにバレてましたわ。


「ノーコメント!」

「朝っぱらから(さか)りすぎだろう、お前ら」


 突然背後から声を掛けられて飛び跳ねそうになった。

元ネタ集


・「マジか……マジで?」「マジだ」

仮面ライダーウィザード主題歌「Life is SHOW TIME」より

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