「手をとりあって」part21
「入る前に準備運動しろよ。二人とも泳げるのか?」
「川遊びしたことあるから大丈夫!」
「わたしもだ。まったく泳げないわけではない」
ならよかった。それにしてもすごいな。プールサイドにはビーチチェアーがあって、奥にはサウナまであるらしい。丸一日いても楽しめるということか。
「オリサ、ちょっといいか?」
「ん、なに?ひゃあっ!」
「トール、油断させ急に持ち上げて落とすとはお前容赦ないな」
「ゲホッ!ちょっと飲んじゃった!ひどいじゃん!ルルちゃん敵討ち頼んだ!」
「任せろ」
「うぉぉ!ぶはっ、鼻に入った!すげえな、あっさり俺を持ち上げたぞ」
「お前など軽いものだ」
「疲れたらすぐ側の椅子で休息が取れるとは良いものだ。中央は深くて足が着かないから、わたしはここで読書がてらお前たちを眺めていよう。そうだ酒を持ってくるか」
「危ないからダメだ」
「おやすみ、トール」
「ああ、おやすみ……」
「大丈夫だ。ほら、手を握っている。いなくならないから、ゆっくり休め」
「どの映画を見ようか」
「トールのおすすめよろしく」
「トールの好みの映画は出てくる人間が悉くリーフのような顔立ちだな」
「洋画が好きなんだよ。んじゃ、いつもと違うので。あ、これどうだ?ルルが好きそうだ」
「人種的にお前達に近いようだな。『酔』……『拳』?」
「古めのアクション映画で、酒を飲んで戦う話。飲めば飲むほど強くなるらしいぞ」
「これ一択だな。早く見よう!」
「サウナはいいものだな。わたしの世界にも同じような施設があるぞ」
「あづい」
「暑いけど気持ちいいな」
「あづい……」
「まあサウナってそういうものだし。オリサ?」
「………………」
「おい、オリサ、大丈夫か?口は動いてるけど声が出てないぞ」
「喋ると……喉の……奥まで……熱く……なる……」
「お前もう出ろ!無理すんな!プールの脇の椅子で休め。な?」
「も、もうちょっと……」
「無理だろ。ほら、俺も出るから」
「あい」
「わたしはもう少しここにいる。ちゃんと水分補給するんだぞ」
「これちょっと気になる」
「アニメーションだな。ランプを撫でるとオリサのような奴が出てくる有名な話らしい」
「あたしは青くないよ!」
「外見の話じゃないって」
「猿怖い……」
「俺も子供の頃この映画見て猿が嫌いになったよ」
「あの、トール?言いにくいのだが、最後がよくわからなかった。なぜテイラーは泣き崩れたのだ?上半身だけの朽ちた石像にしか見えなかったが……」
「あ、自由の女神像を知らないとあのオチ理解できないのか。目から鱗だ」
「そうだ!猿の映画で思い出したけど、ルルちゃんあたしと初めて会ったときに『猿』ナントカって言ってたよね!?あれなんだったの!?」
「『猿』?……ああ、『サルクーン』だろう。私達の言葉で『魔法使い』という意味だ」
「あたしは猿くん……?」
「よう、猿くん」
「ムキー!猿じゃないし!」
「今日も楽しかったね」
「ああ、明日もいろいろな映画を見たい」
「こういうだらけた生活もいいもんだな」
「もっと力を抜いて楽に過ごせ」
・・・・・・・・・・・・
「そういやこの映画もルルが好きそうだな。三部作だから、全部見るのに時間がかかるけど」
「時間はある。見るか」
「説明しないとわからない部分があると思うから、ところどころ説明しながらでいいか?」
「よろしくー」
「1985年にアメリカって国のトップだったレーガンって人は、1955年の時点では役者だったらしいんだよ。だから冗談にしか聞こえなくて信用してもらえなかったと」
「なるほどな」
「おっきな魚だ」
「あれはサメって魚。昔、すげー有名なサメ映画があったんだ。その続編の宣伝をしてるって場面だな。そのサメ映画も最高に面白かったぞ」
「あー、さっき映画の一覧にあったサメと竜巻の映画だ」
「ぜんぜん違う」
「クリント・イーストウッドは俳優の名前で、馬に跨って銃の早撃ちで悪いやつと戦う『西部劇』って映画によく出てた人。マーティがいるのはその西部劇の時代。急だったからその俳優の名前を名乗ってるってジョークだ」
「その西部劇も今度見てみよう」
「おお、わたしもそうだ!ヴェルヌの作品は素晴らしいぞ。この世界で出会った最高の芸術だ!」
「そ、そんなにか」
「おもしろかったぁ!」
「ああ。確かにわたし好みの作品だった。素晴らしい。あの科学者、考えていることがわたしそっくりだ。過去へ飛んだり、車を飛ばしたり。映画に出てくる何もかもが素晴らしかった」
「そんなに気に入ってもらえたなら良かったよ、クララ」
「ああ、すまないがもう一度見ていいか?エメット」
「いいけど、俺はさすがにやめとく。機械の操作はわかるよな?」
「もちろんだ」
「あたしも遠慮しようかな。楽しかったけど、目が疲れちゃった。ちょっと泳いでこよーっと」
「わかった。わたしはしばらくここにいる」
元ネタ集
・映画のネタが多すぎて紹介するのが大変なので、気になるものがあれば連絡をください。超メジャーな映画ばかりですが。