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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第四章 「手をとりあって」
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「手をとりあって」part15

「トールって案外体柔らかいよね。この世界の男の人ってみんなそうなの?」


 ふっふっふ、みんなが驚くのが面白くて日々柔軟を続けていたらこうなったのさ。格闘技と柔軟は切っても切れない関係だし。

 俺はいま大きく開脚してオリサに背中を押してもらいつつ床に額を付けていた。寝る前は柔軟をしなければ落ち着かない。


「いや、俺は特別だと思うぞ。子供の頃から空手やってるから、寝る前に柔軟するのが習慣になっててな。体が硬いと怪我しやすいんだ。格闘技をしてる人って案外柔らかい人が多いし」


 高校一年生のときの体力測定でも驚かれたな。


「怪我したりさせたりするスポーツならやらなきゃいいのに……」


 武術ってそうじゃないんだよなぁ。これはやらないと全くわからないだろうけど。柔軟の締めに大きく息を吐いて身体を曲げる。


「おっし!これで終わり。ありがとうな」

「はーい」

「ときにトール、ずっと疑問に思っていたことがあるのだが」


 俺が着衣を整えベッドに向かうのを見計らってか、ルルが氷の浮かんだウイスキーを飲みつつ問いかけてきた。


「この世界の電気やら水道はどうなっているんだ?」

「んあ?」

「いや、だから電気や水道だ。管理者もいないのになぜ使えているのだ?家を出ていろいろ見て回って遅ればせながらこのおかしさに気づいたのだが。神様から何か聞いていないのか?商店の食べ物も、我々が来た直後に慌てて冷凍したもの以外のものが傷んでいる様子がない。おかしいだろう?」


 ぜんぜん疑問に思わなかった……、とか言えない。そこ認めちゃうと間抜けすぎるだろう。


「あれ?神様がどうにかしてくれてるのかと思ってた。リーフちゃんは『トールさんが何もおっしゃらないならきっと神様とお話がついているのでしょう。わたくし達が口出しするのは無礼かもしれません』って言ってたし。トール?おーい?」


 なんも聞いとらんです……。どうしよう、なんて答えよう。


「聞いていないし今まで疑問にも思っていなかったのだな。よくわかった。聞きたいことは聞いたから寝ろ。おやすみ」

「お、おま、心が読めるのか!?」


 こいつらも神様のような能力を?


「口半開きのままキョロキョロと目を泳がせて『心が読めるのか!?』なんて、冗談でも笑えないけど、本気ならもっと笑えないよ?」


 もっと笑えない方だった。


「後者のようだな……。この旅行が終わったら神様を探して聞いてみよう」

「はい。そうね」

「落ち込みすぎだって」


 メチャクチャ辛辣なこと言ってきたくせに。


「神様の力でどうにかなっているなら、生の食材もまだ使えるかもしれんな」

「ああ、そういうこともあるからちゃんと確認したほうがいいのか。頭が回らず申し訳ない」

「そんじゃ、明日もたくさん遊べるように早く寝なよ。ほら」


 そう言って先に寝床に潜り込んだオリサは大きなベッドの中央に俺を招き入れた。

 少しめくれたバスローブの裾から太ももが見える。日々見慣れたものなのに、妙に色っぽく見えてしまう。落ち着いて寝られるかな……?


 ・・・・・・・・・・・・


「それで、長年人々に恐れられたドラゴンは弓の名手に討ち取られたのだ」

「ルルの世界はマジでドラゴンいるんだな。こえー」


「夕方、一緒に放牧場をお散歩してたらコウモリが飛んでるの見つけてさ。リーフちゃんが『飛んでいようとあのコウモリ程度撃ち抜くのは容易いです。今晩のスープにしましょう』とか言いだしてね」

「止めてくれてマジでありがとう」


「そういえば調べてみたところ白鳥が人間を殺した例が報告されているそうだぞ」

「え、ウソでしょ!?」

「それと、イギリスなる国では白鳥の肉が王族所有の高級食材なのだとか」

「リーフちゃん大喜びじゃん」


「あたしもお酒は興味ないかなぁ」

「そうか。いつか四人で飲むのがちょっとした夢なのだが」

「トールが飲むようになったら飲んでみようかな。トール、眠くなってきた?」


 ベッドで取り留めもなく話していたら、いつの間にかうとうとしていたらしい。


「ああ……」

「よかった。おやすみ」

「たくさん寝ろ」



 ある日突然、家族も友達もいなくなった。訪れるはずだった高校の卒業も大学生活という未来も失われた。意識していなかったけど、だいぶ打ちのめされていたらしい。

 でも、出会いがあった。リーフもルルもオリサも本来なら出会うことのない異世界人だ。三人とも俺に優しくしてくれた。俺を心配してくれた。彼女たちが来てから……、つまり世界から人々が消えてからということにもなるけど、俺は毎日楽しく過ごしてきた。

 昨日の夜、リーフが優しく寝かしつけてくれた。

 オリサとルルとは一緒に白鳥に追いかけられバカ笑いした。

 三人とも、いつも俺のことを気にかけてくれている。

 なんだよ、俺って幸せ者じゃん。

 心のどこかで引きずるものはあるけど、それでもこの仲間たちと出会えてよかった。ここに入る前、二人とも俺のこと大事にしてるとか愛してるとか恥ずかしげもなく言ってくれた。俺も三人が大好きだ。気持ちを切り替えよう。三人といっしょに、これからずっと生きていくんだ。

 明日も起きたら両脇にオリサとルルがいる。ゆっくり休もう。明日も三人で遊んで、もう少し旅行して、それから家に帰ってリーフの飯を食おう……。

 家族がいなくても仲間がいる。三人がいない生活なんてもう考えられないな。


「おや、すみ……。ありがと、な」

「うん、おやすみ。トール」

「ああ、おやすみ」


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