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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第四章 「手をとりあって」
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「手をとりあって」part10

「ここが俺の勉強した教室だ」


 失言はそのままに教室に入る。

 壁には何も貼られていない、教室の割には殺風景な空間だ。生徒は卒業式まで来ないから荷物も置かれていない、本当にまっさらな誰の色もない空間。既に俺が学んだ教室というのは無くなっていたんだな。


「なんか、思っていたより感動とかないな」


 窓の方へと足を進める。


「木がたくさんあるね。あれって何の木?」


 あれならさすがの俺でもわかる。


「あれは桜。もう少ししたらピンク色の綺麗な花が咲くぞ」

「うちの近くにもある?」

「ああ。日本全国、至るところに。咲いたらみんなで見に行こうか。見せるのが楽しみだ」


 オリサに視線を送ると窓枠に寄りかかりちょうど肩を落として息を吐くところだった。


「なんか気を遣ってくれるのは嬉しいけど、トールはあんまり楽しそうじゃないね……。今も、まずあたしにそのお花を見せること考えてたし。あ、気にしてくれるのはうれしいよ?でも、どうすればトールは楽しいかなって思っちゃって」


 もっともな意見だ。だが残念ながらその答えは俺自身もわからない。とにかくいろいろ遊び回るのが一番だろうとは思うが。


「んー、正直、何をすると楽しいのかってのは俺もいまいちよくわかってないんだよな。だからオリサ達を楽しませることを第一に考えてるのかもしれない。案外、自分自身に向き合うって難しいもんだな」

「確かに。うん……自分を理解するのって難しいよね」


 もしかして何かオリサの地雷だっただろうか?まずい話を振ったかな。

 俺の心配をよそにオリサは教卓に近づくと俺を元気に指差した。


「よし!それじゃあ、トールくん。椅子に座って!」

「え、何だ、急に!?」


 戸惑いながら教卓の目の前の席に座る。


「学校ごっこだよ。あたしは先生。あたしの世界の文字ってどう書くのか知りたくない?この黒板に書いて見せてあげる」

「それじゃオリサ先生、お願いします」

「へへ、そんじゃ、教えてあげましょー。白墨あった。あれ?赤とか黄色もあるんだ。おもしろいね。こうこう、はい。これで『オリサ』、んで、こーれーで『トール』。はい、そこのキミ、書いて!」


 そう言って目の前の先生はチョークを差し出してくる。

 黒板には梵字(ぼんじ)だかインドの文字だったかに似た、なにやら丸っこい謎の文字が並んでいる。いや、アレは本当に文字なのか?実は意味のない即興で書いたイタズラ書きと言われてもわからないのだが。


「え、これどうなってんの!?これって本当に文字?」

「文字だよ、失敬な!どっちかって言うとさ、トールが使ってる日本語の方が変だよ。だってさ、漢字とひらがなはわかるよ?でも、ひらがなと同じ音のカタカナを覚えなきゃならないって不親切すぎだよ。あたしはズルして覚えられたからいいけど、トールの世界でこの文字勉強したがる人って本当にいたの?」

「お前、なんつーこと言うんだよ!たぶんいたと思うけどさ。テレビでも日本語話す外国人いたし」

「よし!」


 なぜか突然納得された。


「やーっと、いつものトールの顔になった。やっぱあたしが面倒見てあげなきゃダメだねぇ」


 どうやら今反論したときの俺のことらしい。


「ほら、あたしと話してるときの楽しそうな顔!どーよ!いま楽しかったでしょ?あたしの手柄!」


 腰に手を当て胸を張った仁王立ち、辞書に『ドヤ顔』という項目があるなら参考資料として載りそうな顔をしてやがる。


「調子乗りすぎだ。お前だけの手柄でもないだろ」


 ありがと。


「ルルもリーフも頑張ってくれてるんだぞ」


 楽しい。


「そもそも、ここに来たのが元気になった理由かもしれんし」


 いいやつ。


「そんなに嬉しそうな顔で言われても説得力ないなぁ。ホントは?」

「気遣ってくれて嬉しいです」

「ならよし!そろそろ行く?」

「ああ、そうだな」


 なんだかんだでオリサとじゃれ合って少し元気になった気がする。


「あ、さっき言ってた敵を叩きのめすスポーツでもしてく?あたしはお付き合いできないし、したくないけど」


 道場か。懐かしさはあるが、今はいいかな。


「いや、それより外を少し散歩したい気分だな。ルルを回収してそこら辺歩くか」

「それなら途中で見た湖行きたい!」

千波湖(せんばこ)だな。行こうか。あそこは白鳥がたくさんいるんだよ」


 いつのまにか目が瑠璃(るり)色に変化したオリサが窓に向けて杖を掲げる。付近に雨が降り出した。

 俺は彼女を伴い扉を開け、教室を振り返る。これで俺の高校生活は終わりだ。

 廊下に出て、心に芽生えた満足感と共に扉を閉めた。


「そういやお前、『敵を叩きのめすスポーツ』ってなんだよ」

「え、話を聞く感じだとそうだとしか思えないけど。ねえ、白鳥がいるって言ってたよね?」

「ああ。オリサの世界にもいるか?」

「うん。綺麗だよねぇ。それでさ、リーフちゃんって白鳥も食べたがると思う?」

「そりゃ食べるだろ」

「だよねー!」


 俺たちは雨音と共に先程歩いてきた道を引き返した。

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