「手をとりあって」part5
というのが一昨日の朝の出来事。
俺たちは明日、家畜の世話をしたらあてもなく小旅行に出かける。
ホームセンターで見つけた家庭用の給水タンクにたんまり水を入れて畑に設置したから、リーフ一人でも水撒きは容易なはず。
食事は基本的に出先のスーパーなりレストランなりで適当に確保する予定なのだが、この目論見が外れた場合に飢えないよう、リーフがいいものを用意してくれた。実はリーフはこの世界に来てから即座にスーパーの肉を集めて塩漬けを作っておいてくれたのだという。彼女の世界ではメジャーな保存食なのだとか。故郷にいた頃は食べられなかったものの、製造法は完璧に頭に入れてあったらしい。流石、肉への想いは熱い。俺達はその肉を持参することにした。この世界に来てすぐ行動をしている辺り、リーフは非常に優れた先見の明があるらしい。単に塩漬け肉を食べたいから準備していただけかもしれないけど。あるいはその両方か。
明日はどこへ行こう。ベッドに転がり、もぞもぞと寝返りをうちながら考えた。
今更ではあるが、そもそも本当に世界には人間が俺しか残っていないのだろうか。案外、探してみたら生き残りがいたりして。なんせあの神様が言うことなのだから。……これも現実逃避かもしれない。未だにこの世界を認めたくなくてこんなことを考えているのかもしれないな。今はとにかく楽しく出かけることを考えよう。リーフには悪いけど。
「リーフ……ごめん」
自然と口から出ていた。
一昨日話した際は納得したものの、本当に彼女だけ置いていってしまってもいいのだろうか。俺に気を遣ってくれているのではないだろうか。それなら申し訳ない。
でも、だからといって明日になって急に『やっぱり一緒に行こう!』なんて言っても迷惑なだけだろう。どうするのが正解なのだろう。どうすれば、みんなストレスなく丸く収まるのだろうか。
ああ、いけない……。議題は変わっているが、いつものような堂々巡りが始まったらしい。これは今日もなかなか眠れないな……。
寝不足の運転なんて危ないからしたくないのに。早く寝なければ。オリサもルルも楽しみにしている様子だったから今更旅行をキャンセルなんてしたくないし。
「トールさん、まだ起きていらっしゃいますか?」
堂々巡りの思考に待ったがかかった。寝室のドアをゆっくりノックする音に続いて俺の物思いの主役、リーフの声が聞こえた。
「どうぞ。開いてるよ」
寝ようとしているタイミングの来訪者など本来ならお断りだが、今は横になっていたとはいえ眠気も全くないので起き上がりつつ入室を促した。
「失礼いたします。やはり、眠れませんか?」
まだ本格的に寝る体制にも入っていなかったが、心配させてしまっただろうか。
「これから寝ようとするところだよ。まだ電気も消してなかったし。どうしたの?あ、どうぞ座って」
ベッドから降り、勉強机とセットの椅子を差し出そうとするが、リーフが制する。
「どうぞお気遣いなく。ベッドにお戻りください。わたくしはお側に失礼します」
リーフは俺の肩に手を置き寝床へと誘導する。抵抗することなく布団の中へと戻り上半身は起こしたままリーフを見上げたら、彼女もベッドの縁に腰掛けた。