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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
プロローグ & 第0章「最後の一人の地球人」
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「最後の一人の地球人」part4

「お前さん、今日はどのぐらいの人に会ったね」

「え?あー、……おじいさんだけです。田舎なので誰にも会わずに駅に着きましたが、電車が来なくて」


 老人は穏やかな眼差しで俺を見つめる。まだ話し続けて良いのだろうか。


「他に電車を待っている人もいなかったんです。電車が来ないし人もいないしでなんだか不安になって。それで、どこか人がいそうなところへ行こうと思ってこのコンビニへ来ました」

「本来なら店員がいるはずだからな」

「はい」


 金も払わず嬉々として酒を飲んでいた老人とは別人のように思慮深い視線をこちらに向け、老人は俺の考えを代弁した。


「妙な焦燥感というか孤独感というか、おかしな気持ちになったというのもあります」


 なぜだろう。普段なら俺の口は初対面の人間にここまで軽くない。だが、この怪しげな老人の前だとこんなにも素直に話してしまう。


「ほう、本能で感じ取ったものがあるのか。流石に自力でその原因にたどり着くことはできないだろうがな。無理もない。こんなこと予想できるもんじゃない。実はな少年、いや馳透君、この世界に人間は君一人になってしまったんだ」


 この老人は今何と言った?

 なぜ俺の名前を知っている?

 世界に俺一人?

 なら家族は?

 大掛かりなドッキリか?

 百歩譲って店員はともかく、電車も止めて?


「驚くのも無理ないことだ。わしにもこんな事態初めてだからな。この宇宙を見つめて130億年。いや、140億年だったか?ま、10億年なんて誤差の範囲だ」


 わけがわからない。


「わけがわからんだろうな」


 心を読まれたかのようだ。


「この状況をすんなり受け入れるほうがどうかしている。昨日まで、人類は父祖から受け継いだ暮らしを当然のように続けていた。だが、皆消えてしまった」

「あの、えっと……どういうことです?何があったんですか?」


 皆消えてしまった。つまり死んでしまった?妹も、友人たちも、今まで会ったあらゆる人々、これから出会うはずだった様々な人たちも皆?


「先程行ったとおりだ。みんな異世界へ転移してしまったのじゃよ」


 俺の頭はもうダメかもしれない。


 ・・・・・・・・・・・・


「えーっと、それですみません、この世界、というかこの地球に残っている人間は僕だけなんですか?」

「そうだ」


 俺とこの爺さんはとりあえずコンビニのイートインスペースの椅子に腰掛けていた。爺さんは『まぁ、悲観してもしかたない』となぜかやたらと楽しそうにビールのおかわりとビーフジャーキーやらアイスクリームやら、おつまみとデザートを取ってきて次々開封していた。俺も何か飲み物を持ってくるか悩んだが、まだ眉唾ということもあり、どうにも店のものを勝手に飲み食いする気になれなかった。


「僕の妹とか、ここの店員とか、いろんな人が、その、異世界でしたっけ?違う世界に行ってしまったと?」

「左様」


 さっきまで割と普通に話していたのに、急に時代がかった返事が返ってきた。


「その『イセカイ』って何なんですか?それに、なんで僕だけ残されたんです?」

「異世界は異世界じゃよ。君が生きているこの世界と異なる世界だ。どうにも十年ぐらい前からかな、この世界から異世界に転移やら転生やらする者がやたら多くてな。その行った先々の世界の神たちとそれを横で見ていた神たちが『そんなに異世界に行きたい人間が多いなら、この世界の人間をどんどんウチの世界に飛ばしてしまおう』ということにしてしまったようだ。終いにゃこの星の人間が根こそぎ連れて行かれてしまった。酷い話じゃよ」


 なんなんだろう、この胡散臭いファンタジーな話は。しかも『根こそぎ』なのに、ここに一人だけ置いていかれた人間がいる。その疑問に対する回答もない。というか神?


「それで、なんで僕が残されたんですか。何か条件に当てはまらない事があったんですか」

「わからん」

「は?」

「わからんのだよ。たぶん偶然じゃないかね。例えば、おお!」

「なんですか!?」


 老人が話の途中で大声を出したので驚いてしまった。


「このパンケーキ味のアイスなるものが案外美味くてな。期間限定のフレーバーもイケるもんだ」


 目の前にあるビール瓶で頭を叩いてはだめだろうか。

 それに、たしかこの世界にはおおよそ77億あまりの人がいたはずだが、俺だけが異世界に吹き飛ばされない条件があったとでもいうのか。意味がわかんねえ。


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