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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第三・五章「ドワーフの冒険」
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「ドワーフの冒険」中

 風が気持ちいい。

 このバイクという乗り物、実に気に入った。わたしの身長で乗るのは大変かと思ったが、コツさえ掴めばどうとでもできた。真に大変なのは降りるときだったが、これも慌てず対処して事なきを得たし、サイドカーという装備のおかげで安定感が増したことも幸いした。

 ドワーフとしては長身のこの身体ならば馬にも乗れるだろうとリーフは話していたが、あの高さは恐ろしい。教養の範囲で小馬には乗れるが、この世界で手に入れるのは難しそうだ。その点、この機械の馬は背が低くわたしと相性が良いように思う。


 今回の旅では様々な学びがあった。トールに確認したいこともいろいろある。ハンドルを握る手にも自然と力が入る。そうだ、トールに確認で思い出した。この世界の電気や水道は一体どうなっているのだろう。未知のもの故に使えて当然だと思い込んでいたが、どうやら人のいない現在も使えるというのはおかしなことらしい。帰ったらまず聞いてみるか。


 それにしても、ほんの六日間会わなかっただけなのにこんなにも道を急ぎたくなるとは、自分でも驚きだ。それだけわたしの中で仲間たちの存在が大きくなっているのだろう。三人とも異種族ながらわたしという存在を受け入れてくれた。同じドワーフでさえわたしに奇異の目を向けたというのに。

 あまつさえ、魔法使いのオリサとエルフのリーフはわたしのために怒ってくれた。特に温和なリーフが怒るなんて意外だった。オリサに乗せられてドワーフの村に進軍しそうになったので止めるのに必死だったが、内心では両親や弟、友人のようにわたしを大切にしてくれる彼女たちの優しさに涙が出るほど嬉しかった。

 だが、寝床をともにしているオリサが明らかにわたしを抱き枕として、子どもとして扱っているのは気に食わん。やれ『ルルちゃん、ぎゅってしてあげる~』だとか、やれ『ルルちゃん、ぽかぽか~』だとか、やれ『あたしがいるから寂しくないよ~』だとか、子ども扱いしているのは明白だ。そのくせ朝になると決まって腹を出して寝ているから、わたしが布団をかけてやっているのだ。

 いや、むしろわたしがいないことで彼女のほうが寂しくて泣いているのではなかろうか。涙目でリーフの部屋に行き、『一緒に寝てもいい……?』と言うオリサを想像したら、自然と口元が(ほころ)んでしまう。


 いかんいかん、運転に集中しなければ。もし何かにぶつかれば、車と違い身を守るものがないバイクは危険度が高いことは容易に想像がつく。

 ……今夜は久々にオリサに抱きしめられながら寝るのも悪くないかもしれないな。


 大きな通りをひたすら真っ直ぐ進むのが行程の大半であることはトールに送ってもらった段階で理解していた。幸運にも天気に恵まれた。

 そういえば、元々この世界にいた人々はバイクに乗る時に雨が降った場合、どう対処していたのだろうか。これだけいろいろな技術があるなら何らかの対策はあるだろう。まさかずぶ濡れで運転はするまい。

 もうすぐ家が見えてくるはずだ。頭の中で再現した地図は合っているはず。あった。

 みんなは畑の様子を見に行っている頃だろうか。無事に一人で帰る事ができて安心した。


 家の門を通ったところで、ふと見慣れないものに気づいた。わたしの作業場と化している物置の隣に小屋のようなものがあるのだ。バイクを降り、ヘルメットとゴーグルを外して近づいていった。鳴き声が聞こえていたので予想はしていたが、小屋の中には鶏がいた。いつの間に建てたのだろう。みんな、わたしがいない間もそれぞれ頑張っていたのだ。わたしも頑張らねば。

 そう思いバイクの方に引き返そうと振り向いたわたしの耳に激しい羽ばたきが聞こえてきた。どうしたのか。小屋の中を見ても特に違和感はない。音の出どころは物置の裏手らしい。なぜこれほどまでに激しく羽ばたく音が聞こえるのだろうか。

 疑問に思っていたら『ダンッ!』という何か重いものを叩きつけるような、それでいて鋭い音が聞こえた。先程の激しい羽音が近づいてくる。視線を送った物置の裏手から、本来なら頭がある位置から激しく血を滴らせた鶏が羽をバタつかせながら現れた。


「ぎゃぁぁぁぁぁっっ!」

「きゃ、なんですか!?」


 反射的に叫んでしまった。自分でもこれほどまで大きな声が出るのかと驚いた。わたしの背後では小屋の中の鶏たちが驚き、バタバタと激しく走り回っている。

 あてもなく走っていた頭のない鶏はもう倒れて動かない。

 いったい何が起きている!しまった、斧はバイクに積んだままだ。どうすればいい。家の敷地とはいえ油断した。この惨状を引き起こした危険生物はすぐ近くに潜んでいるはず。


「ルルさんですか?」

「リーフか!」


 よかった、仲間がいた。そう思い安堵したわたしの目に、白い頬とフリル付きの白いエプロンを返り血で赤く染め、右手に血の付いた鉈のような大きな刃物、左手に血の滴る鶏の頭を持ったリーフが現れた。


「ひゃぁぁぁぁぁっ!」


 またしても悲鳴を上げ、今度は腰が抜けてしまった。ますますわからん、一体何が起きている。いつも穏やかなリーフがなぜこんな殺戮を。


「ルル!?お前、どうやって帰ってきたんだ!」


 いつの間にかわたしのもとに走り寄ってきたトールに抱き寄せられ、わたしは安堵から意識を失った。


「リーフちゃん!そんな格好じゃ驚くに決まってんじゃん!」


 オリサの怒る声が遠くに聞こえた気がした。

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