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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第三章 「リーフの異常な愛情」
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「リーフの異常な愛情」part9

「すげぇ……」

「神様すっごいねぇ」

「ええ、わたくしも改めて驚きました」


 朝食を終え朝の散歩がてら畑と新しく出現した放牧場の様子を見に来たのだが、その景色は昨日とは一変していた。

 俺にとって子供の頃から慣れ親しんだ田舎の田畑とご近所さんの家の景色。それが今はなんということだろう。緑が生い茂り小川も流れる広い放牧地といくつかの厩舎、倉庫が並んでいる。

 お値段もほら、神様の思し召しにより無料で済んだのだ。


「神様マジですごいな……。あれ、そういえば、リーフ、神様は昨日あれから馬を連れて帰ったの?」


 昨日はすっかり忘れていた。


「ええ、昨日の畜舎にお戻りになりました。ただ、その時点で既に暗くなっていたので馬に乗ったままは危ないからと、神様ご自身でお乗りになっていた馬とわたくしが乗って来た馬を引いて、歩いて帰られたのです」


 泊めてあげればよかったかな。


「ウチに泊まればよかったのにね」


 オリサも同じことを考えたようだ。


「ええ、わたくしもそう考えまして。泊まることができるか否か、トールさんに伺ってはどうかと進言したのですが……」

「断られたと」

「はい。『ありがたい申し出じゃが、急に押しかけては悪かろう』と心配されていたので『たしかにその通りかもしれません。家主はわたくしではないため大変申し訳ありませんが、すぐにはお返事致しかねます』と返答しました。どういうわけか(いささ)か驚いたお顔をされていましたが。次に『暗くて危ないとはいえ、道は複雑じゃないからなにも問題はない。既に真っ暗とはいえ問題ないじゃろう』と話されたので『(おっしゃ)る通りでございます。偉大なる神様の後光(ごこう)により、この道はたちまちのうちに夜明けを迎え明るく照らされるでしょう』と申し上げました。最後に『透やオリサとも、お茶でも飲みながらもっとゆっくり話したかったが仕方あるまいな』と名残惜しそうにお話になったので『昼間、お話ししたこと以外にお聞きになりたいことがおありならば、わたくしめが至急、全霊をもって駆け呼んでまいります。神様にこれ以上ご足労いただくなど恐れ多いことをさせるわけには参りません。わたくしにお任せくださいませ』と答えました」


 あれ、神様もしかして……。


「その後、神様は『んー、まぁ気にするでない』と力なく仰ったかと思えば、馬を引いて帰られました。ああ、そうです。その際に、見えなくなるまで何度も何度も何度も、こちらを振り返ってくださいました。おそらく、神様はいつもわたくしたちを見守ってくださるということを伝えたかったのでしょう。本当にこの上なく有り難いことだと思います」


 神様、異世界人に遠回しな表現はダメだよ

 たしか、日本語は文脈から意味を察する『高コンテクスト文化』らしいが、リーフの母語はおそらく『超スーパー低コンテクスト文化』なんだろうな。要するに、日本語みたいに文脈から察してもらおうとするんじゃなくて、明確に言葉として出せ!察するとかムリ!はっきり言え!ということ。今後、リーフと話す際はハッキリ話すよう気をつけねば。『察しの文化』で育った日本人の俺には難しそうだ。


「これらの農場を移動するのに大変多くのゴッドパワーをお使いになったそうで今にも倒れんばかりでしたから心配だったのですが、さすがは神様だと改めて実感すると同時に、神とはいかに偉大なものなのかを目の当たりにいたしました。わたくし、神様のあまりに偉大な勇姿に感動してしまい、その御姿(おすがた)が見えなくなってもしばらくの間その場を離れることができませんでした」


 暗い道を疲労困憊の中、馬を引いてトボトボ帰ったんか、神様。

 めちゃくちゃ敬ってくれるリーフの前だから弱いところも見せられず、最初のリーフの提案も社交辞令的に断ってしまったばかりに我が家に泊まる機会も逃して。引き止めてほしいがために何度も何度もチラチラ振り返って。さすがにかわいそうになってきた。車はあっという間でも、歩きだと一時間半はかかる距離だ。疲れていたのなら更に時間がかかっただろうし。


「神様、ドンマイだね……」


 リーフには聞こえないようにオリサが呟いた。俺には静かに頷くことしかできなかった。


 ・・・・・・・・・・・・


「ここが放牧場です」


 先導するリーフに続く。学校の運動場より更に少し広いくらいの放牧場だ。これなら、動物たちもストレスなく過ごせるだろう。複数ある畜舎にはそれぞれ馬や牛、ヤギに羊がいるらしい。一晩のうちに我が家の近辺が牧場になった。

 中に入ってみると、驚いたことに動物たちは映像を一時停止したかのように動きが止まっていた。急に家畜の世話をするのは大変だからと、神様が動物たちの時を止めたままにしてくれたそうだ。明日になれば、まずは馬たちが動き出すらしい。ヤギと羊はその二日後、牛はさらにその二日後から動き出す。神様は実は本当にすごい力を持っているのだな。リーフからは心からの敬意を込めつつ酷い扱いを受けているが。

 豚に関しては雑食性で、草食の他の動物と勝手が変わるからと移動は止めたらしい。他の家畜に慣れて自信が付いたらリーフ自身が誘導して連れてくればいいということになったとか。納得できる理由だが、神様のゴッドパワーが限界を迎えたのではないかと推理した。


「それじゃ、明日から本格的に飼育が始まるわけか」

「楽しみだねぇ」

「はい!」


 リーフが満面の笑みで頷いた。


「リーフ、嬉しそうだね」

「ふふ、年甲斐もなくわくわくしております」


 見たところまったく皺もなく、俺よりやや年上くらいにしか見えないけど……。リーフは時々不思議なことを言う。これで意外と四十代、まさか五十代とか?いやいや、まさかな。


「さて、トールさん。わたくしがあの子たちを飼育したい理由でしたね。お話ししましょう。オリサさんも、こちらへどうぞ」

元ネタ集


・「なんということだろう。【中略】お値段もほら」

『大改造!劇的ビフォーアフター』での、加藤みどりさんのナレーションより。


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