幕間 「辞任劇の一方で」
「トールさんもオリサさんも無事でよかったです」
「まったくだ。トールは戦闘能力を持っていそうにないから、おそらくオリサ一人で対処したのだろう。わたしの世界でははるか昔、たった一頭のドラゴンがドワーフの国を蹂躙し乗っ取ったこともあるほど圧倒的な生物だというのに。そんな相手を一人で撃退するとは、オリサはああ見えて偉大な魔法使いなのかもしれんな」
「そうなのですか。わたくしの世界でも同じことが。それにしても仰るとおり、オリサさんは信じられないほどの戦闘能力をお持ちなのですね。普段はその素振りを見せませんが」
「単独でドラゴンを撃退できるほどの腕があれば、もっと偉そうにしていてもいいだろうに」
「親しみやすいよう、あのような子供っぽい性格を演じているのでしょうか」
「たしかにそうかもしれん。なかなかによく考えているものだ」
「ところでルルさん。つかぬことを伺いますが、ドラゴンのお肉を食べたことはありますか?」
「ドラゴンの?あるわけないだろう!」
「そうですよね・・・。いえ、お気になさらないでください」
「?」
「浴室の暖房もつけましたし、お風呂も間もなく準備できそうですね。オリサさんが心配なので、わたくしも一緒に入って背中を流してさしあげようと思います」
「それがいいな。ひどく取り乱していた。いま呼んでくる。わたしは二人の服を洗ってやろう。あのまま洗濯機に入れたら、機械が壊れかねん」