第九章「ユリの帰還」part16
「もう月を見てリリちゃんに話しかける必要ないね」
「ああ……実は、夜になったらちょっと不安になってきたんだけどな」
「また、いなくなっちゃうんじゃないかって?」
「ああ。最初にみんないなくなったときも俺が寝てる間だったし。朝起きたら状況が変わってることにかなりビビってる。泣きながら話しただろ?目を閉じるのが……寝るのが怖いって。前と違って、今はこうやって自分の気持ちを理解できてるあたり俺もかなり成長してると思うけど」
「久しぶりに一緒に寝てあげようか?」
「心配すんな。大丈夫だよ」
「そっか……ならよかった。明日は何しようね」
「改めて海で遊ぶのと、魚釣りかな」
「楽しみだね!」
「そうだな。それじゃ、そろそろ寝ようか」
「ここでこのまま寝られないかな?星が綺麗だし」
「んー、焚き火に薪を追加で入れておけば大丈夫かも」
「なら今日はここで寝ちゃおうよ!」
「夜の浜辺は案外冷えるよ。やめときな」
寝転がった頭の先から突然声が割って入った。二人揃って慌てて起き上がると、先程俺たちがバーベキューを楽しんだ付近のビーチチェアにユリが腰掛けていた。
「オリちゃんもお兄ちゃんも、マジいちゃつきすぎ。バカップルすぎてウケんだけど」
「リリちゃん!な、なんでそこにいるの!?」
「お前、寝たんじゃなかったのか?」
「もうちょっとだけ飲もうと思ったのに、さっきの梅味噌忘れちゃったから取りに戻ったんだよ。そしたら海で仲良くキャッキャウフフしてんじゃん?面白いからずっと見てたよ。あ、この味噌舐める?」
なんだか懐かしさを覚える、このシチュエーション。オリサが寝てると思って話しかけたけど起きてて、ルルも後ろで一通り聞いていたあの日のような。
「夜中になると流石に寒いと思うし、寝てる間に火が消えて風邪引くからちゃんと部屋で寝たほうがいいよ」
「そうする」
「うん、気をつける」
「ところでさ、いまあの三人が寝てる部屋に戻って物音立てて起こしちゃったらヤダからさ、隣の部屋で寝ようと思うんだよね」
「あの部屋、俺が寝る部屋なんだけど」
「知ってる。ベッド二つあるから、うちとオリちゃんで一つ、お兄ちゃんで一つでいいっしょ?うちが同じ部屋にいれば安心してお兄ちゃんもゆっくり寝られるし」
こいつも案外不器用なお人好しらしいな。
「んじゃそうするか。そろそろ寝よう」
「そうだね。戻ろう」
「寝る前にシャワーでちゃんと海水流しなよ。肌が傷んじゃうからね」
「はーい!」
「りょーかい」
焚き火を消し荷物を持って俺たちはホテルへと歩き出した。
「あ、うちとオリちゃんじゃなくて、お兄ちゃんとオリちゃんの方がいい?」
「なんでだよ」
「あたしはいいけど」
「オリちゃんが寝てる間、どさくさに紛れてGカップを好きなだけ揉めるようにっていう、妹の配慮」
「えっ!?」
「バカ野郎。オリサ、触らないから」
胸元隠して困った顔しないでくれよ。
「なあユリちゃん、お兄ちゃんはそういうボケ良くないと思うのよ」
「なんだつまんない。勢いのままにナニがあっても寝たふりしててあげようって思ったのに」
「お前が天ちゃんと気が合う理由がわかった気がするよ」
楽しそうに笑う妹にため息が止まらない。
「そんなわけでオリちゃん、女同士仲良くしようね〜」
「う、うん」




