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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第一章 「『常盤色のオリサ』と黒龍」
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「『常盤色のオリサ』と黒龍」part12

「オリサちゃんは属性四つのてんこ盛り!どーだ!すごいでしょ!」


 何か嫌なこと、話したくないことがあるのだろうか、どこか虚勢を張って誤魔化しているようにも感じる。


「そもそも俺の世界に魔法が使える人間はいないからなぁ。全員が属性ゼロだぞ」

「あ、それもそっか!」


 何気ない感想だったけど、いつもの調子に戻ったらしくケラケラと笑っている。よかった。


「そんでね、あたしは最初に習得して今も一番得意な魔法が風の魔法だから、名前を名乗るときは『常盤色のオリサ』って名乗るようにしてるんだ」

「じゃあ、別の属性の魔法を使うときは……」

「うん、炎の魔法を使うときは『緋色のオリサ』ちゃん。」

「瑠璃色は青っぽいから……水の魔法?」

「ご名答」

「えっと、もう一つは何だっけ?」


 今聞いたばかりなのに、初めて聞く色だったので忘れてしまった。


櫨染(はじぞめ)色だよ」

「はじぞめ……?」

「まぁ、黄色でいいよ。ちょっと赤味がある黄色なんだけど、わっかりにくいよねぇ。普段の生活で『あら、あの人のローブ素敵な櫨染(はじぞめ)色』なんて言わないし。目の色もそんな色になんないのにさ。あたしの目はもっときれいな色だし」


 口先を尖らせながら神様から与えられた名前に文句を付けている。だがそんなことより気になる情報が出てきた。


「目の色?」

「うん。今は……、ほら見て」


 そう言ってオリサは身体が密着しそうなほど近くに寄ってきた。オリサの髪からいい香りが漂ってくる。なぜだ、俺と同じシャンプーを使ってるはずなのに、なぜこんなにいい香りがするのだ。なんだか急に緊張してきた。


「今のあたしは『常盤色のオリサ』だから目の色は『常盤色』、つまり緑色だよ。わかる?」


 その言葉通り、彼女の瞳は透き通った美しい緑色をしている。


「ふふ、ドキドキした?」

「う、うるせぇ」

「このかわいいかわいいおめめちゃんの色が、別の魔法を使うときは変わっちゃうんだなぁ」

「マジか」

「よし!せっかくだから見せてあげようじゃないか。あたしの魔法!ちょっとだけ移動するよ」


 そう言って彼女は畑の端に突き刺していた杖を回収し、何も植えられていない休耕田へと移動した。ジャガイモに影響を与えないためだろうか。案外よく考えている。


 ・・・・・・・・・・・・


 魔法とはいったいどんなものなのだろうと考えながら、俺は先導するオリサに付いていく。


「そんじゃまずは、今話題に出てきた櫨染(はじぞめ)色からいこうか。属性は土!足元を見ててね!我の名は『櫨染(はじぞめ)色のオリサ』!」


 気合の入った声に答えるかのように、オリサの瞳の色が見慣れた緑から黄色に変化した。



 オリサが暗黒面に落ちた……。選ばれし者だったのに!

 一度言ってみたかった。



「大地よ、我が呼びかけに応えよ!はぁっ!」


 勢いよく杖を地面に突き刺した直後、まさしく彼女の呼びかけに応えるように畑の土が動き出した。地震とは違う、土が意思を持って自ら移動しているような不思議な感覚が足裏に伝わってきた。呆気にとられていると、みるみるうちに平坦だった畑に畝ができていく。


「あはは、びっくりした?」


 よほど驚嘆(きょうたん)の顔だったのだろう。悪戯っぽい笑顔で俺を見ていたオリサの目の色がまた変わった。


「お次は水だよ。我は『瑠璃色のオリサ』!雨よ、大地を潤せ!はぁっ!」


 今度は両腕を大きく広げながら、杖を天に掲げた。


「魔法の雨がふるぞぉぉぉっ!あははははは!」

「え、何?」


 思わず聞き返したが、オリサに代わって空から大量の雨粒が返事をした。

 二月の日本ではありえないスコールの真っ只中に放り込まれる。


「うわ!」

「いやー、気持ちいいねぇ」

「オ、オリサアアァァァ!!」


 雨はすぐに止み、空には先程までと同じ雲ひとつ無い快晴が広がっているが、一瞬とはいえ雨量が多かったため、服はビショビショ足元の土はふんだんに水を吸ってぬかるみ始めていた。


「ごめんね、ちょっと寒くさせちゃったか。んじゃ、次は炎を出して暖めてあげる!服もカラッカラに乾くから!」


 それはありがたい、そう思ったのはほんの一瞬で、俺はオリサに待ったをかけた。


「ちょっと待て!そんな炎を出したらジャガイモの芽まで燃えるだろ!燃えなくても、いきなりそんな熱が加わったらジャガイモには悪影響だ!」

「あ!そっか。」


 慌てて呼びかけた甲斐あり、既に目が赤く変化していたオリサが即座に杖を下ろした。危なかった。服が一瞬で乾く炎って、俺もミイラにならないかな。ならなくても顔面カサカサ、髪の毛チリチリになる未来しか見えない。止めて正解だった。


「んじゃ最後に一番得意なやつ!飛ばされちゃうかもしれないから、あたしの後ろから動かないでね」


 気づいたらオリサの瞳は見慣れた緑色に戻っていた。最後まで披露したいらしい。内心では寒いからもう帰りたくなっているのだが、得意な魔法の披露とあってどこか嬉しそうなオリサには言いづらい。


「我が名は『常盤色のオリサ』!はぁぁ、轟けぇぇぇぇぇぇっ!」


 一際気合の入った叫び声を上げた次の瞬間、オリサの握っている杖の先端から猛烈な勢いの風が天に向けて飛び出した。



「あ」



 風の奔流の中で、先程までの凛々しい声と全く異なる戸惑いの声が俺の耳に届いた。オリサは一点を見つめて明らかに狼狽している。彼女の視線の先にはジャガイモ畑。そして、そのすぐ上では巨大な竜巻が水を吸った黒い土を巻き上げながら空に向かって昇っていた。さながら天に登る巨大な黒龍だ。


「あの……、オリサ?」

「え?あ、はい……」

「あの竜巻、止められるの?」


 返事を聞かなくても答えはわかった。止められるのなら、あの竜巻を発生させた当人が泣きそうな顔で小刻みに震えるはずがない。震えすぎてオリサの輪郭が二重にも三重にも見える気さえする。


「じゃがいもぉぉぉぉぉ!!」


 オリサが叫びながらジャガイモ畑に向けて走り出そうとしたのを察知し、慌てて彼女の肩をつかんだ。

元ネタ集


・「暗黒面に落ちた……。選ばれし者だったのに!」

 スターウォーズシリーズ、後半はエピソード3のオビワン・ケノービの台詞より。

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