第九章「ユリの帰還」part14
「お前がいないと畑を耕したり水やったりが面倒になる」
「なんだよ!魔法が目当てってこと!?」
「冗談だよ」
「ふふ。サンキューね」
「おう。ところで、旅行はどうだ?まぁ、海で遊べたのはちょっとだけど」
「すっごく楽しかった!」
「それはよかった」
「でもトールは海に入れなかったね」
入らなかったわけじゃないけど。荒れ狂う海に飛び込んだのはカウントしないよな。
「明日がある。俺は初めて来たわけじゃないし」
「そんなこと言って、実は入りたいんじゃない?ほら、海を更に楽しくする、かわいい女の子もココにいるよ?」
「どこだろ?」
俺は辺りを見回した。
『かわいい』に反応しないのは照れ隠しだったが、月明かりと焚き火に照らされるオリサは確かにかわいかった。いつも一緒にいるけど、やっぱりオリサは美人だしなんだかちょっと照れくさいな。
「もう!平常運転がすぎるぞ!じゃあさ、お願い。あたしと一緒に海で遊んで?」
上目遣いでこちらを見るオリサは本当に愛らしい。二人とも短パンだし、膝下くらいまでならいいかな。
「いいぞ、遊びたいなら付き合うさ」
「あれ?案外素直だね。もうちょい渋るかと思った」
「約束だからな」
「なんか約束したっけ?」
「昨日の夜、世界から人がいなくなった以上の驚きがあればなんでも言うこと聞くって言っただろ?」
正確には約束じゃなくて勝手な宣言だけど。
というか、すんなりOKするのが照れくさいだけなんだよね。
「またユリに会えるなんて思わなかったよ」
「だからあたしと遊んでくれるってこと?」
「楽しそうだし」
「やったね!でもよかった。昨日のあの言葉、あたし達心配してたんだよ」
なぜに?理由がさっぱりわからん。不思議に思ってオリサを見つめていると彼女も呆れたような顔をした。
「自分でわかんない?普段は『一人だけ残されて驚いた』なんて話、ぜんぜんしないんだよ。でも昨日は急に自分から話したからビックリしちゃった。トールが部屋に戻ったあと、みんなでトール大丈夫かなってお話したんだから」
ちょっとした冗談のつもりだったのに、ずいぶん心配をかけてしまったらしい。申し訳ないことをしたな。
「心配かけてすまん。ぜんぜん意識してなかった」
「それだけこの生活にも慣れてきたってことかな。それじゃ遊ぼっか!ほら、脱いで、脱いで!」
オリサは立ち上がるとパーカーのチャックを勢いよく下げた。
「ちょ!ぬ、脱ぐなよ!」
「何想像してんのさ!下は水着だよ」
パーカーの下からは以前の旅行で手に入れたオレンジ色のビキニが現れた。
揺れた……。
「男の子って凄いね……。咄嗟のことなのにすぐ胸に視線が来た」
「見てない!見てないぞ!」
自分でも呆れるほど雑な嘘だけど。オリサはスルスルと短パンも下ろす。中に履いているのは水着とわかっていても、目の前で女の子が履物を下ろす様を見るのは大変緊張する。
あっという間にオリサはオレンジ色のビキニ姿になってしまった。出るところが出てウエストはくびれていて、小さくはないが大きすぎもしないヒップラインにスラリと細く長く白い足。グラビアアイドル顔負けの美しい肢体が月明かりに照らされる。
「俺は海パンじゃないから上だけ脱ぐことにする。夜だし、危ないから膝より深いとこは行くなよ」
「うん!」
急な展開に驚いてるけど、喜んでくれてるしいいかな。俺もシャツを脱いでオリサに続いた。
踏み出すと柔らかな波が優しく足に当たる。
「冷たいかと思ったけど案外大丈夫だな。寒くないか?」
「大丈夫!えい!」
オリサが手で豪快に水を跳ね上げた。とっさのことに避けることもできず頭から被ってしまう。
「うわ!いきなりやったな!おら!」
「きゃー!ははは!やっぱちょっと冷たいかもー!」
「え、大丈夫か?」
「隙あり!」
「おわ!このやろう!」
「わ!わ!ゴメーン!きゃ、しょっぱい」
昼間遊べなかった反動だろうか、俺達は時が経つのも忘れて一心不乱にはしゃいだ。