第九章「ユリの帰還」part9
「わたくしはトールさんに畜産大臣という称号をいただき、真に生きる意義を見出しました。お料理に関しても素晴らしいお知恵をいくつも授けてくださいました。わたくしがこの世界へと来たのは間違いではなかったのです!感謝してもしきれません。トールさんは家族であり、友であり我が主なのです!そのトールさんの妹君が帰還されたのは素晴らしきこと!よくぞお帰りくださいました。心から歓待いたします」
「ありがとうね。リっちゃん案外熱い性格だね」
「ふふふ。激しやすい年齢などとうの昔に過ぎたのに、年甲斐もなくお恥ずかしい限りです」
「お兄ちゃんのこと感謝の他にはどう思ってるの?」
「目から鼻へ抜けるようなお方です」
「ごめん、リーフ。俺にはよくわからない」
「判断力があり、大変聡明な方という意味です」
「日本人が大和言葉聞いてわかんないのマジでウケるっすよ!」
すぐ側からバカでかい笑い声が聞こえる。うるせえなぁ。
「悪かったな。リーフ達は神様の力でこの世界の言葉をマスターしてるから、ときどき俺も知らない日本語を使ったりすんだよ」
「えー、それなんかおもろいじゃん。いいねぇ。ってかさ、お兄ちゃんそんなに聡明?うちそんな姿見たことないけど」
自分でもそう思ってはいるけど酷くない?
「とんでもない!リリィさんにも深く関わることなのです」
「あ。あたしわかった!」
「手前もわかりました!」
「わ、わたしはわからない。すまない、トール!」
「別に謝らんでも……おい、泣くなよ!」
「ルルちゃんチョー純粋!ウケるっすわ!」
「天ちゃん酔うと百倍増しでうぜぇな」
「うちに関わるってことは、今日のこの半日のことだよね?」
「あたし達、海で遊んでたんだけど急に天気が悪くなってホテルに戻ろうとしたの」
「そこで海に雷が落ちたのです」
「そうか、わかったぞ!あのときトールが最初にリリィに気づいたのだ」
「そうっす。トールくんが気づいてすぐに走り出しました。手前は何がなんだかサッパリでしたから止めようとしたんすけど、ルルちゃんとリーフちゃんに浮き輪を持ってくるように指示してそのままダッシュ。すごい判断力っすよ」
「そうだったんだ」
照れくさいからこの話終わりにしたい。
「そんで天ちゃんが急いで海に飛び込んでお前をキャッチ。リーフと一緒に看病してくれたんだよ」
「あー!トールくん照れてる!ウッケるぅ!」
「大事なこと隠してるね。別に言っちゃってもいいのに」
「結局、俺はなんもしてないだろ」
「いや、お前は勇気ある男だ。間違いなく勇者だ」
「心配だったけどね」
「何があったの?」
「天ちゃん様が飛び込み救助したのは事実ですが、その前にトールさんが荒れる海に飛び込んだのです。一切の躊躇なくですよ。そして意識のないリリィさんを一度は保護しました。しかし、荒れる波のせいでリリィさんが流されてしまい、そこで天ちゃん様も飛び込まれたのです。その後はお聞きのとおり」
「え!?お兄ちゃんそんな無茶したの?……ありがとうね」
「気にすんな」
「ゆり子ちゃんが流されちゃったときも、捕まってた浮き輪を離してすぐに助けに行こうとしたんすよ。そんなの、今度こそトールくんも流されちゃうから手前が飛び込んだんす。手前は空を飛べますし海の中も関係なしに動けますからね。トールくんは優しいし勇気があるんすから」
「リリィ、お前の兄はなんと言ったと思う?『無茶だけど無理じゃない』だそうだ。ふふふ、こいつらしい」
あー、居心地悪い。
「なんかお兄ちゃんかっこいいじゃん。ちょっと見直したかも」
「ちょっとかよ」
望んでないのに持ち上げられて変な気分だ。
「もういいだろ。ユリが流されたときだって、本当は浮き輪を離して追いかけるの躊躇ってたし。別に褒められたかったわけじゃないんだから、この話はこれで終わり」
「照れるトールくんかわいすぎなんすけど!」
馬鹿笑いの声がうるせぇなぁ。
・・・・・・・・・・・・
「ぐう、うううう、だからな、リリィ。わたしはトールがいなければ自分の体質を知ることもできなかったんだ。本当の自分を見つけられなかったんだ!トール、本当にありがとう。トールだけじゃない。オリサもリーフも、わたしはお前たちと一緒に過ごす今が人生で一番幸せなんだ。みんな、みんな、本当にありがとう。うううう……。いつも素直になれなくてごめんな。お前たちが大好きだぁぁ!」
「ルルちゃん、聞いてるこっちが恥ずかしくなるって。飲みすぎだよ」
「ルっちゃん良かったねぇ。本当に良かった」
「ルルさん、わたくしは改めてあなたの村の者共の言動が許せません!愛用の弓矢はいま手元にありませんが、日々持ち歩いているバーベキュー用の鉄串が我が手にあります!エルフの名誉にかけて、ルルさんを侮辱した不届き者たちに怒りの一撃を!必殺必中!この銀槍、決して仕損じることなどありません!」
『ヒュッ』という音と共にリーフが勢いよく腕を振るった直後、近くの木に銀色の鉄串が突き刺さっていた。
「リーフ落ち着け、鉄串を投げるな!」
「リーフちゃんブチ切れてる。超ウケるぅぅ!!」
天ちゃんが両手を叩きながら笑い転げている。笑う要素一切なかったと思うんだけど。
「お前は笑ってないでリーフを抑えろよ!俺より力強いんだし!」
「トールさん、離してください!この木を敵に見立てて戦闘訓練です。目です!耳です!鼻!」
すごい勢いで木に鉄串を刺している。怖すぎ。串が刺さった位置的に間違いなくドワーフの頭の高さを狙ってるし。
リーフは絶対に怒らせないよう気をつけよう。