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第九章「ユリの帰還」part8

「ルっちゃん、この水着は自分で選んだの?」

「そもそもこの体だろう?選択肢が少なかったのだ。その中でも比較的容易に着られそうなものをオリサが選んでくれた」


 そういう流れだったんか。あ、オリサが突然明後日の方を向いた。あの野郎、わかっててルルにスク水着せてたな。


「でもスク水ってさぁ。これって子供が着るものだよ。うちも小学生の時着てたし。大人で着る人は、んー、まあいないかなぁ……」

「オリサぁ!」


 オリサに遊ばれていると気づいたルルが走り出す。どうなるのか気づいていたらしいオリサは既に逃亡を始めていた。


「手前はかわいい女の子にスク水着せるの大好きっすけどねぇ」

「聞いてねぇよ」

「大人のお姉さんに着せるのも、それはそれで堪らないっすよ」

「わかったっつーの」

「ほら、リーフちゃんが着てるの想像してくださいよ」

「え……」

「想像しない、アホ!」

「ぐふっ!」

「うふふふ」


 妹に脇腹を殴られた。リーフは相変わらず余裕の笑み。一瞬想像したら確かに凄かったんだもん……。


「リリちゃんなんで言っちゃうのさぁ!」

「待て!」

「ごめんってばぁぁぁ!」


 オリサの方が断然速いのだが、それでもルルが執念で追いかけている。飲んで食ってすぐ走るのは危ないぞ。


「ほどほどにしとけよ。気分悪くなるぞ!」

「オリサちゃん、いいセンスっすね。手前、スク水姿のルルちゃんにリビドーを大変刺激されたっす」

「ああ、そうかい」

「そういやこれどこ?近くにこんなプールあったっけ?」

「え、あの……そこは……」


 ラブホテルです、なんて言えるか!


「あ!これ見たことあると思ったら、県道からちょっとズレたところにあるラブホテルっすよね。行ったことありますよ!いいっすよねぇ、プライベートプール!周りがだだっ広い田畑ばっかだから最初に行ったとき、本当にこの建物かな~って見つけるのに苦労したんすよ。あれ?トールくん、どうしたんすか?」

「お兄ちゃん、オリちゃんとルっちゃん連れてそんなところ行ってたんだ」

「はい……」

「楽しかった?」

「はい……」

「それはよかったねぇ」

「今度みんなで行きましょうか。いいホテルっすよ!」

「お兄ちゃんと二人で行ってくるといいよ」

「いいっすね!」

「わたくしもご一緒したいです」

「よかったじゃん、うちはお断りだけど」

「やめて……」


 泣きそう。


 ・・・・・・・・・・・・


「そういえばリリィさんは漁師をしていらしたのですか?」

「そだよー。だからこんな真っ黒よ」

「身長も伸びてるし髪と肌の色が違いすぎてお前だってわからなかったよ。ああ、あと何より大人になってたからな」

「だろうね」

「でも、トールとリリちゃんって寝てるときの顔が似てたよ」

「ああ、わたしもそう思ったが、トールはわからなかったらしい」

「自分じゃわからんよ」

「あの、すみません」


 リーフそっちのけで話してしまった。悪いことをした。手でリーフに話を促す。


「この旅行の目的の一つに魚を食べることがあったのです。ぜひ捌き方をご教授願えませんか。一応勉強しましたが、実際に捌いたことはないので、心配だったのです」

「うん、もちろん!毎日やってたから慣れたもんだよ。魚料理も教えてあげる」

「よかったです。料理を担当しているからには、皆さんに美味しいものを食べていただきたかったので」

「あ、その気持ちわかる。リっちゃん料理好きでしょ?これでもいろんな人を見てきたからわかるよ。料理の準備してる時、楽しそうだったからね」

「ありがとうございます!」

「それじゃ明日は魚釣りすんの?船を出して漁とか?うち、帆船しかムリだよ?」

「たぶん釣りかな。ノープランで来たからなんも決めてない」

「そこらへんは明日また考えたらいいんじゃないっすかね。いま相談しても準備するの大変でしょうし」

「ホントそれな。飲んだあとに仕事のことなんか考えたくないし」

「酒を飲んでいるときに仕事の話など無粋だからな、ふっふっふ」


 飲み仲間が増えたからか嬉しそうだな。


「そういえばさ、この半年の間みんなはお兄ちゃんとどんな生活してたの?写真は見せてもらったけど、もっと詳しく聞きたいな」

「俺が世話になりっぱなしな半年間だったよ」

「そんなことはない!」


 ルルが耳をつんざくような勢いで否定しながら立ち上がった。なんとなくわかったけど、こいつらなにか強く主張したいときは立ち上がるんだな。


「お前はいつもそう言うが、わたしはお前に感謝しているのだ!心から!リリィよ、よく聞け!わたしはお前の兄に本当に救われたのだ」

「アレルギーを教えたことが?よくわからんなぁ」

「お前はそれでいいかもしれんが、わたしはお前がいなければ何も変われなかった。お前はわたしに『踏み出す勇気』を与えてくれたのだ!」


 そ、そうなのか?


「ルルさんだけではありませんよ。わたくしもオリサさんも、我々を受け入れてくださるトールさんに心から感謝しているのです」

「だね。リリちゃんにもトールの凄さを聞いてもらおっか!」

「お兄ちゃんすごい支持率じゃん。詳しく聞かせてもらおうかねぇ。よし、望むところだ!あ、お兄ちゃん、逃げずに一緒に聞こうね」

「マジかよ」

「いいじゃないっすか、手前もゆっくり聞かせてもらいましょう」


 特別なことは何もしていないと思うのだが。俺はすごく居心地が悪いし散歩でもしていたいなぁ。


「その前にもう少し飲むか。わたしはウイスキーを開けようと思う」

「わたくしは葡萄酒をいただきましょう」

「リーフちゃん、手前も飲んでみたいっす」

「ええ、もちろん」

「みんな強めのいくねぇ。いいじゃん、どんどんイッちゃいなって。

「え、みんな大丈夫?飲み過ぎじゃない?」

「オリサよ、酒を飲む以上は自分の限界も把握しているということだ。心配するな」


 当の本人が酩酊して大失態を犯しているが忘れたのだろうか。

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