第九章「ユリの帰還」part6
「リっちゃんお肉ばっかだよね?ほら、野菜あるよ。ピーマン大丈夫?」
「ああ、いえ、わたくし草、失礼、お野菜はちょっと」
「あ、食べられないのか。ごめんね」
「いや、この世界に来た直後は普通に食べていたぞ」
「そうだね。単純にお肉が大好きってだけだよ」
「手前が初めてお会いしたときのお弁当すごかったっすよねぇ」
「どんなんだっけ?冷凍のミックスベジタブルだっけか?」
「じゃがいもとトウモロコシの炒めものにケチャップがかかってるからこれは野菜!って感じでしたよ。でもまぁ、そのおかげで手前はお肉を食べるきっかけになりましたけどね」
「炭水化物祭りじゃん!リっちゃん意外だなぁ。天ちゃんはその頃ヴィーガンだったの?」
「単純に、生き物はあんまり食べたくないってだけっすよ。服とかでは動物性のもの使っちゃいますし。今はうーん、リーフちゃんのお料理が美味しすぎて心が負けちゃってるんすけどね」
「今も鶏肉だけはダメだけど、酒飲んでるし順調に生臭天使だよなぁ」
「そもそも、わたし達と出会った時点で性には奔放だったのだが」
「えへ」
「それにしてもリっちゃん、ゆるふわな雰囲気なのに超肉食系かぁ。ギャップ凄いな。あ、そうだ」
「どうされましたか?」
ユリは飲み物とは別のクーラーボックスに手を入れると俺の方に近づいてきた。
「お兄ちゃん、はい」
「冷やしトマト?どうした?」
「あの、どうぞわたくしはお構いなく、トールさん、召し上がってください。お好きですよね、トマト」
まあ好きだけどね。
「うちが目を覚ましたばっかのとき『わたくしに命令できるのはトールさんだけ!』とか言ってたよねぇ?」
「は、はい。戦場に立てと言うならば弓を持ち、肉欲のままに身体を差し出せと言うのならばそれに従う所存――」
「そういうのいいっての!俺は何も言ってないのに周りに何度も勘違いされてんだよアホ!」
「し、失礼しました」
「あ、ユリ!今までリーフとそういう関係になったことないからな!」
「うん、大丈夫。お兄ちゃんがそんなこと言えるほど大物だと思ってない」
「それもなんかしょんぼりなんだけど……結局、トマトどうすりゃいいの?」
「リっちゃんに『食べろ』って命令してみてよ」
「お、お待ちください!」
「リっちゃん、栄養は大事だよ」
「リーフ、このトマト食べてみろ。美味いぞ」
「はい、いただきます。……美味しゅうございます」
「あれ、本当に美味しそうに食べてる」
「味は美味しいですが、もっとお肉を食べたいのです……」
「リーフちゃん、千年以上ベジタリアンだったから、今は食べられるだけお肉を食べたいんだって」
「野菜はもう十分食べたから、今まで食べられなかった分、肉を食いたいそうだ。保守的なエルフにしては珍しいな」
「へー……え、千年って言った?」
リーフとルルの年齢を聞いたらさぞや驚くだろうな。