第九章「ユリの帰還」part5
「燃えろ燃えろー、ヒャッハー!」
「おお!すっげー、一気に火がついた。オリちゃんすごいねぇ」
そういえば『緋色のオリサ』がちゃんと活躍してるのは初めてかもしれないな。
リーフたちがバーベキューソースをいろいろと作っていて時間がかかりそうだったので、散歩がてら近くのキャンプ場で薪を回収してきた。それを組み上げてキャンプファイヤー開始。
女の子と浜辺でバーベキューとキャンプファイヤー。自分の人生でこんなイベントが訪れるとは思わなかった。オリサのテンションが上りすぎて、積んだ薪に火を付けるだけなのに象ぐらいの火の玉を召喚したときは驚いたが、無事に薪に火がついてよかった。
「それじゃ焼き始めましょう。こっちのグリルはお野菜、そっちではお肉っすよ」
「お肉はお任せください。牛と鶏と豚とヤギ、それぞれ様々な部位がありますから希望があれば仰ってください。流石にモツは持ってくるのを諦めましたが、他はたいてい用意してあります」
「ねえ、なんでお肉がそんなに種類豊富なの?」
「それから、味付けは塩胡椒と醤油だれ、味噌だれ、わさび醤油、ゆず胡椒、カレー風味、にんにく塩、ねぎ塩、チーズソース、胡麻、それに梅味噌がありますが」
「調味料も豊富すぎんだろ」
「まずは乾杯をしよう。早く飲みたい。リーフと天ちゃんは何がいい?」
「まずはわたくしも麦酒をいただきましょうか」
「どーしよっかなぁ。普段は飲まないけど、今日は手前もビールいただいちゃいましょうかね」
「はーい、これ冷えてるよ」
オリサが氷の詰まったクーラーボックスから瓶ビールを取り出す。
「ありがとうございます」
「あざっす!」
「お前はお茶がいいか?」
「何いってんのさ!こんな美味そうな料理と宴の雰囲気に飲まないなんて罰当たりだよ!ってわけで、うちもビール!」
「わかった」
妹が呑兵衛になってる。お兄さんちょっとショック。
「はい、トール。お茶だよね?」
「ああ、ありがと」
「ルっちゃんはジュースじゃなくていいの?」
「もちろんビールだ!」
「ダメだよ、そんな背伸びしないで。もっと大っきくなってから飲もうね。いい子だから」
「撫でるな!身長なぞ随分昔に止まったわ!」
「ユリ、ルルが一番酒好きなんだわ」
「マジで!?そらビックリだわ。無理してない?大丈夫?」
「大丈夫だと言っている!まったく。早く乾杯しよう。ビールがぬるくなる」
「えっと、酒の人はコップに入れないのか?」
「このままで構わん」
「えーっと、633ml?こんぐらいならすぐだよ。乾杯しよ!」
そういうものなのだろうか?オリサと二人で顔を見合わせてしまう。
「トールくん、オリサちゃんと見つめ合ってないで、乾杯の音頭とってくださいよ」
「そうじゃないって!」
音頭を取るのは俺なのね。毎度毎度、いざ任されると難しいな。さて、何に乾杯かな……。
「あー、みんな今日はお疲れ。明日はもっと遊ぶぞ!」
「「「「おー!」」」」
「おー、です!」
「それじゃ楽しい旅行に!!」
「「「「「「乾杯!!」」」」」」
昼間とは打って変わり穏やかさを取り戻した海。
優しい波の音と対象的に瓶同士のぶつかる小気味いい音がビーチに響いた。
「あー、やっぱこれだわ。この世界の酒は初めて飲んだけど、うんまいねぇ!」
「お前強いの?」
「宴の最初に言っておくよ。うちはかーなーり、強い!」
「指をさすんじゃない、まったく」
「うちを酔わせたら大したもんですよ」
「なんで急に滑舌悪くなるんだよ」
「トール楽しそう」
「ホントっすね。あー、お酒って美味しいっすね。これはハマるのわかっちゃうかも」
「天ちゃんはこれが初めて?潰れないように気をつけてね」
「ありがとうございます!ゆり子ちゃん優しいっすねぇ。トールくん、一生大事にします!妹さんを手前にください!」
「ヤダ」
「うちはいいよ」
「ヒャッホーイ!」
「は!?おまっ、ちょっと待て!」
「ふう、お代わりをもらおうか」
「ルっちゃん、はやっ!マジで大丈夫!?」
「ふふ、これくらいなんてことないさ」
「くくく、たまらん……は!」
全員の視線がリーフに集まった。
「ど、どうされましたか?」
「あの、リーフちゃん、いま話し方変わらなかった?」
「笑い方に妙な貫禄があったぞ?」
「『たまらん』とも言ってたっすね」
「あら、オリサさんもルルさんも天ちゃん様も、何をおっしゃいますか。わたくしがそのような言葉遣いをするはずがございません。もう酔いが回ってしまいましたか?うふふふふ」
「普段より一オクターブ低かったよな」
「エェェェデルワァァイス、エェェェェデルワァァァイス!毎朝トールさんに挨拶するときと同じ高さですよ」
「今のはむしろいつもより高めじゃねぇか」
「あらら、お肉が丁度いい頃合いですよ。みなさま、どうぞ」
すごく気になるけど聞いても教えてくれる雰囲気じゃないな。さっきのリーフ何だったんだろう……。