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第九章「ユリの帰還」part2

 オリサは最後らしいから、天ちゃんの紹介か。面倒くさいことになりそうだなぁ。


「えっと、じゃあ次は天ちゃんだな」

「よ!待ってました!」

 

 瞬間、両手を打ち合わせて大きな音を鳴らした。注文を受けた寿司屋か。

 

「やっと出番が来たっすね!ゆり子ちゃん、はじめまして!世界中の紳士淑女に愛を伝える愛を届ける天の使者、天ちゃんっす!!好きな食べ物はお豆腐と発酵食品とキノコ全般!好きな飲み物は豆乳!ヘルシー!!好きな場所はラブホテル!エクスタシー!趣味は無垢な若者を『卒業』させることと、性技の伝授!エェェクスタシィィィッ!!将来の夢は腹上死!どうぞよろしくおねがいします!」

「馬鹿じゃねぇの?」

「天ちゃん、死んじゃダメだよ……」

「オリサ、泣くだけ無駄だ。聞き流せ」


 ルルの言う通りだ。


「だって、将来の夢って……」


 ため息が止まらねぇ。ルルが頭を抱えリーフが困った様子で笑っている。ユリだけは楽しそうだ。当の天ちゃんはひどく狼狽えている。

 

「オリサちゃん、冗談っすよ!つまらないこと言っちゃってごめんなさいね」

「なら良かったけど……死なないでね?」

「んで?このやかましくてセクシーで爆乳のイケメンは結局何者?」

「天使だ。こいつだけは異世界から来たんじゃなくてこの世界にずっといたらしい。一緒に住んでるわけじゃないんだけど、今日は一緒に旅行に来たんだよ」

「天使!?マジか」

「美しすぎてビビっちゃいました?」

「あ、ごめん、美しさならリっちゃんの方が上」

「なぬ!うーむ、さすがトールくんの妹。やるっすね」

「でもイケメンだとは思うよ。黙ってれば尚更ね」

「落ち着いたトークこそが手前の真骨頂だっていうのに!」


 ウソつけ。


「天ちゃんはふざけてるように見えて俺たちのことを大切にしてくれてるんだよ。俺がこないだ熱中症で死にかけたときにも飛んで助けに来てくれたんだ。そうだ、さっきお前を介抱してくれたのはリーフと天ちゃんなんだよ」

「あ、そうなんだ。二人共、本当にありがとうね」

「いえ、とんでもない」

「そうっすよ。困ってる人は助けなきゃ。それにしても……」


 天ちゃんが嬉しそうに俺を見つめる。なんじゃい。


「トールくん!手前のこと、そういうふうに見てくれてたんすね。いっつも厳しいツッコミばっかだから心配だったんすよねぇ」


 どうしよう。

 天ちゃんを見つめたまま思わずため息が出た。


「な、なんで手前を見てため息吐くんすか!」


 言いたかねぇけど感謝してるのは事実だ。いい機会だし、ちゃんと伝えておくか。


「一回だ」


 人差し指を立てて天ちゃんに向き合う。


「何がっすか?」

「一回だけだ」

「なんの話っすか?」


 息を大きく吸って考えをまとめる。よし、ちゃんとお礼を言おう。正座して背筋を伸ばし、天ちゃんの目を見つめた。


「この前は熱中症の俺を助けてくれた。今日は危険な海に飛び込んで妹を助けてくれた。天ちゃん、本当にありがとう。天ちゃんのおかげで俺達兄妹は生きてるよ。いつも俺たちのこと気にかけて海外の食べ物を持ってきてくれたり、困ってることがないか気にかけてくれたり、感謝してる。本当にありがとう。照れくさいからもう言わないぞ。一回きりだ」

「トールくぅん!」

「ギャァァ!くっつくなよ!離れろ!ルル、引き剥がせ!」

「いいじゃないか。楽しそうだぞ」

「そういう問題か!」

「トールくん、大好きっすよ~。へへへ~」

「やめろ!な、舐めるな!ひゃぁぁぁあっ!や、やめ、やめてください。握らないで……」


 妹よ、お兄ちゃんは汚されちゃったよ。お前の目の前で。

 

「なんか、お兄ちゃんずいぶん気に入られてるね」

「お尻が可愛いっすからね」

「ちょっと待て!そういう理由なのか!?おい、離れろ!」

「うーん、さっきから気になってたんだけどさ、その……天ちゃんってどっちなの?下半身に違和感があるんだよね」


 すげぇな。自力でその疑問にたどり着くとはさすが我が妹。俺は単純に巨乳のお姉さんだと思ってた。


「さすがトールくんの妹さん!良い質問っす。気になる答えは、へへへ、握って確かめてくださ――」

「了解!」

「んぁぁ!ふぅん!」


 言い終わるか終わらないかのうちにユリは天ちゃんの股間を握りしめていた。こいつマジかよ!天ちゃんが内股で悶える。


「あ、ああ、あぁぁ!んんんんぅ!そ、そんなに強くにぎにぎしたらダメっすよぉ……」


 切ない声でユリに訴えるも、顔はかなり嬉しそうだ。何だこの光景。


「へぇ?ダメなの?眼はそう言ってないよ?ウソつき。天ちゃんは悪い子なんだね。本当はどうなのさ。言ってごらんよ」


 ユリが指先で天ちゃんの顎を持ち上げる。こいつこんなにSっ気強かったっけ?


「教えて、ほら」

「あうっ」

「ほらほら」

「あ、あああぅぁっ!あ、ああ、い、いいっす、ダメじゃないっすぅぅ」

「いい子だね。そう、素直が一番だよ。うん、よくわかった」


 天ちゃんの股間から手を離したユリが自分の右手を見つめる。

 天ちゃんの体から力が抜け倒れそうになるも、すぐさまリーフが背中を支えた。


「天ちゃんすごいね。こんなの隠してたんだ。いやぁ立派、立派」

「お兄ちゃんは感動の再会を果たした妹が躊躇なく他人の股間を握りしめていてちょっと泣きそうだよ」

「素晴らしい胆力です。さすがはトールさんの妹君」

「俺、関係なくない?」


 こうなってくるとリーフの中の俺がどういう存在なのか疑問だ。ルルが呆れたように頭を抱え、オリサが顔を赤らめて下を向いている。とんでもないもん見せられたな。


「あー、えっとな、天ちゃんは身体を男女好きな方に変えられるんだと。んで、上も下も『有る』状態が一番自然らしい」

「あ、ホントだ。これパッドとかじゃなくて本物のおっぱいじゃん」

「あううぅぅ!ゆり子ちゃん、だ、だいたぁんんん!」

「うおー、でっけぇ~。下から持ち上げるとユサユサ動くじゃん。ほら、お兄ちゃん見てよ。羨ましいなぁ」

「それ、いいっす、もっとぉ」


 ユリが躊躇なく天ちゃんの胸を揉みだした。もう止めて。


「お前、異世界でずいぶん性格変わったな……」

「トールさんに伺っていたよりも大いに豪胆な印象です」

「す、すごかったっす……はぁはぁ、ま、またお願いしますね」

「任せな!」


 天ちゃんが顔を赤くして崩れ落ちた。リーフが膝枕をしてやる。マジで何を見せられてるんだろう。

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