「ガールズ・オブ・サマー」part15
「キミたち掃除してるんだよな?」
「先にくつろいで……ずるいぞ!」
重いものばかりでなかなかの肉体労働だがこの後海に入るわけだし汗なんて大したことないか、と自分に言い聞かせ鞄を手に指示された五階のスイートルームにたどり着いた。少し疲れたから一息つこうと思って部屋に入ってみれば……。
部屋は豪勢、極力壁を廃してガラスを多用し自然の光をふんだんに取り入れられる作りになっているようだ。
俺たちが立つ入り口から広い通路を通った先には一段高い畳敷きの和室が広がり、そこでは今オリサとリーフがお茶を飲んでいる。いや、なんでまったり休んでるんだよ。
和室の向こうにはガラス越しにバルコニーがあり、大洗の海を一望できる。素晴らしい眺めだ。更に和室の隣には広々とした通路を挟んでベッドスペース。ダブルサイズ?もしかしたらそれ以上の大きさのベッドが二つ並んでいて、その隣にはガラス張りの半露天風呂が備わっている。すごいな。大浴場の他に部屋に備え付けの露天風呂か。そこではちょうど天ちゃんがひとっ風呂浴びていた。いやいや、なんでまったり風呂に入ってんだよ。
「百歩譲ってお茶は許すけどさ、いや、やっぱおかしいだろ先に休みやがって。まあそれは置いといて、あいつなんで風呂入ってんの?」
「ずるいぞ」
「ごめーん、お掃除してシーツ交換した後ちょっと座ったら動けなくなっちゃってー」
「畳と緑茶の組み合わせは安らぎますね。日本人の特権です」
何を言うか異世界産エルフ。
「トールくーん!」
「おう?」
「いっしょに入りましょー」
「風呂で飲むと酔いが回りやすいから気をつけろよー」
「飲んでないっすよぉ」
「そ、そうなのか。気をつけねば」
隣のちびっこを見れば困った顔をしている。危なっかしいな。さっきのお姉さんっぷりはどこへ行った。
「少し休もうか」
「むうぅ、早く海に行きたいのだが、皆が疲れているなら休むべきだな」
「お茶をどうぞ」
「ありがとう」
「お風呂空きましたよー。入りたい人どうぞー」
視界の端に一瞬見えた天ちゃんはタオルを巻いたりしていなかった気がするので壁の方を向く。うちに泊まる度に女モードのまま裸で徘徊するから慣れたもんだ。マジで止めてほしい。男モードなら良しってわけでもないけど。
「て、天ちゃん、そんなとこにもピアスしてるの……?」
「お、おぉ……、そこはさすがに痛そうだな」
「このようにするとよく見えますよ。前に見せていただきました。それからこちらに――」
「早くそいつに服を着させろよ!」
こいつらも裸の天ちゃんに慣れすぎだっての。
「あら、そんなところにクーラーボックスが。スポーツドリンクとか冷えてたりします?」
あ、しまった。あのボックスは下に置いておこうと思ったのに流れで持ってきちゃったな。
「あるぞ。これはこの後の休憩用だから水とスポーツドリンクが主だ。まだぬるいと思うけど、ほれ」
「あざーっす!」
「もうちょっと休んだら海行こうか」
「ええ」
「さんせー!」
・・・・・・・・・・・・
晴れ渡る空と夏の海。ここは砂浜。
「うーーーーみーーーーー!」
「いまいちどーーーーーー!」
「あそぶぞーーーーーーー!」
「およぐっすよーーーーー!」
「やべ、飲み物忘れた」
ノリノリの四人に恨みがましい目で見られた。悪かったよ。先程のクーラーボックスを今度は部屋に置いてきてしまった。
「あとでいいから早く遊ぼうよ!」
「さすがのわたくしも辛抱たまらんです!」
「そうだぞ!あとで取ってきてもいいだろう」
「のどが渇いたら海水飲めばいいじゃないっすか」
「バカか!俺は部屋に戻って取ってくるから、みんなは先に遊んでて」
ちょっと部屋に戻って飲み物を取ってくるだけだし。
「いいじゃん、別に。なんでそんなに今ほしいの?」
「のどが渇いているのか?」
「俺からみんなにアドバイスだ」
「何でござんしょ?」
「夏の日差しの下で活動して『のどが渇いた』って思ったときにはもう手遅れの可能性があるから、事前に飲み物を用意するのが重要なんだよ」
「大変失礼いたしました!」
「トール、手伝うよ!」
「すまない、お前は休んでいろ!わたし達が運ぶ!」
「いいっての!」
こんな感じになると思ったから言いたくなかった。
「すぐ終わると思うし、みんなは先に遊んでろって。天ちゃん、三人が無茶しないよう見ててくれ」
「了解っす。早く来てくださいね~」
「トール、ありがとね」
「おう、気にせず遊んでろ」