「ガールズ・オブ・サマー」part9
「天ちゃん、水着はいつ探そっか?」
「二人とも、予定とかなければ明日にでも早速行きます?この世界のお店は冬から時間が止まっちゃってるんで、探すのに少し時間がかかるかもしれないっす」
「ええ、では明日のお昼頃からでいかがでしょう。鞍を用意しておきます」
「う、暑そう……」
「大丈夫っすよ、明日は車で迎えに来ますから」
天ちゃん運転できるのか!
「教習所通ったの?」
「当然じゃないっすか!お姉さんはゴールド免許っすよ!ほれ!」
そう言って天ちゃんが免許証を見せる。今のこの世界でも持ち歩いてるのか!律儀だな。
「ホントだ。ってか天ちゃん戸籍とかどうなってるの?」
「そらもう神様譲りのゴッドパァわぁ〜でちょいちょいっと」
「捏造したということだな」
「はいそこ!ルルちゃん、言い方がすごくイメージ悪いっすよ!」
「間違ってねぇだろ」
それにしても色々ツッコミどころのある免許証だ。
「生年月日が明治元年一月一日……ずいぶんなお年で」
「考えるのめんどくて」
「めーじっていつ?」
「百年以上前」
「天ちゃん様、思ったよりもお若いのですね」
千歳越えリーフ姉さん、歳の話の時は黙っててくれないかなぁ。
「名前の……最初のこの漢字はなんて読むの?」
「『えんじ』っす。臙脂色って聞いたことあるっしょ?」
「あー、どんな色かわからんけど聞いたことなら。『臙脂恵流子』……えんじ、めぐみ、ん?えりゅうこ?えるこ?えんじえるこ……あ、エンジェル子!」
「天使っすから」
「明治元年にこんな名前のやついねぇだろ。写真もまぁ……」
「イケてるっしょ?」
「天ちゃん派手だな」
「装飾がすごいです」
短髪の今と違って青紫のロングヘアに耳はピアスだらけ。見てるだけで痛くなる。
「いいなぁ。あたしも付けたい」
「んじゃ今度ピアッシングしましょうか。手前慣れてるから心配しないでください。消毒もちゃんとしますから」
「うん!」
「お耳と乳首とどっちに付けます?手前とお揃いにしましょうね」
「え!?」
「馬鹿野郎」
「オリサ、無視しておけ」
「天ちゃん様、『めっ』ですよ」
「へへ、すんません」
まったく。
というか、天ちゃん自身は付けてるんか。
「俺達の前ではぜんぜん付けてないね」
「毎度毎度、会うタイミングが急なんすもん。トールくんとデートするならバチっとキメて現れるっすよ」
「いや、いいっす」
そもそもデートなんかしないし。
それにしても、この免許、実はさっき作ったんじゃねえだろうな。
「年齢も明らかにおかしいし偽名感ハンパないし写真ハデハデで不審者にしか見えないけど、職務質問されて身分証出した時に変な顔されなかった?」
「よくわかりましたね!しょっちゅう職質されてたんすよ。ラブホテル街とか歩いてると特に!そんなときはゴッドパワーといいますか、手のひらをヒラヒラさせて『問題ないんすよー』って言えば納得してくれるんすよ。ステキな力で心をちょいちょいっと」
洗脳じゃねぇか!こいつサラッと怖いな。
「天ちゃんはもう髪の毛長くしないの?この写真の髪型かわいいのに」
「マジっすか!」
「うむ、男のような短髪の今よりは魅力的だな」
「今の方が湯浴みが楽だからではありませんか?」
「あー、いや、ちょっと前に人間のフリして付き合ってた子の好みに合わせてたんす」
ということは、その子は異世界に行っちゃったのか。
「ご、ごめん!」
オリサもその事実に気づいたようだ。ルルとリーフも目線を落として悲しそうな顔になってしまった。
「ああ!大丈夫っす、気にしないでください!その子はもう二百年前に死んじゃってますから。今回の大転移はぜんぜん関係ないっす!」
「ぜんぜん『ちょっと前』じゃねぇよ」
「二百年程度なら一呼吸の間ではありませんか?」
「いやいやリーフ、人生の折り返しを過ぎているし、さすがに『ちょっと』はないだろう」
意見はルルと同じはずなのに、理由が全く噛み合わないのなんだろう。
「あたし頭痛くなってきた」
「安心しろ、俺だけはお前の味方だ」
「ま、せっかくですし二百年ぶりにイメチェンしますか!ホイッと」
「わっ!」
天ちゃんが指を鳴らすと同時に藤色のロングヘアが現れた。
オリサが驚きの声をあげる。
「きゅ、急に変わるなよ。驚いたわ」
「性別が変わるのですし、髪くらいはわけないのでは?」
「リーフの適応能力はたいしたものだ」
「リーフちゃんの言う通りっす。透くん、どうっすか?むしゃぶりつきたい、いいオンナでしょう?」
蠱惑的な表情で髪をかき上げるがその手には乗らん。
「腰から上はいいと思うよ。下は知らん」
「んもう、女の子モードかもしれないっすよ?握って確かめて良いのに〜」
「では、失礼いたします」
リーフが一礼して天ちゃんの股間に手を伸ばす。
「やらんでいいわ!ルル、止めろ!」
「リーフ、オリサの情操教育に悪いぞ」
「なんであたしの名前が出るのさ!」
はぁ。まったく、いつも通りに賑やかで面白い家族だな。
「まぁとにかく、明日は三人で気をつけて出かけてきてくれ。俺はルルの手伝いでもしてるから」
「よろしくお願いします」
「楽しみだね!」
「ですねぇ」
「わかっている!必ず役に立ってみせる!」
とりあえず旅行計画は大丈夫そうだな。一人、近寄れば火傷しそうなほどに闘志を燃やしているが。
話し合っている中でオリサも夏を忘れてだいぶ元気になったみたいで良かった。