「ガールズ・オブ・サマー」part5
「ん……」
「リーフちゃん!」
「トール、聞こえるか!わたしがわかるか!?」
騒がしい。バタバタと周りで気配が入れ替わっているようだ。
「失礼、場所を空けてください。トールさん、話せますか?」
未だ霞む視界には見慣れた家族がいた。リーフ、ルル、オリサ、みんな俺の顔を覗き込んでいる。
「リーフ」
身体が重い。頭も重いしボンヤリするし。
「どこ……?」
「家だよ!よかった、本当に危なかったよ!よかった……、ごめんねトール……本当にごめん」
「トール、よかった……」
「意識が戻って良かったです。無理をさせてしまい、お詫びのしようがありません」
よく見ればここは見慣れた自分の部屋。ベッドで横になっているらしい。何が起きたかまったくわからない。
たしか一人で家畜の世話をして暑くてそれから……そうか、熱中症で倒れたのか。
「いいよ……餌やりだけでもやっちゃおうと思ったけど、水分補給忘れちゃって……。気づいたら一気に調子悪くなって、動けなく、なった……」
俺が必死に言葉を絞り出すのを褒めてくれるかのようにリーフが頭を撫でる。その滑らかな掌が心地良い。
「心配……かけたね」
「だって、悪いのあたしたちだよっ?」
「そ、そうだ!わたしたちが朝まではしゃいでいたからこんなことになったのだ!本当に、ごめんね……ごめんね……」
オリサだけでなく、ルルまで取り乱している。喋り方も素の方になってるし。なんとか助かったみたいだから気にしなくていいのに。
「俺も、一人で無茶したせいで、こんなことになってごめんな。二人とももう泣くなって」
左腕が動かしにくいと思えば点滴が繋がっている。そんなにヤバかったのか。
あれ?この感じ、俺もしかして……?恐る恐る自分に掛けられているタオルケットの中を覗き込む。
なんとまあ、一糸まとわぬ姿。
「あの……リーフが脱がせたの?」
「ええ、わたくしと――」
「リーフちゃんとルルちゃんがヤってくれたんすよ。手前も参加したかったっす」
リーフの背後から天ちゃんが現れた。
「そうか、君が助けてくれたのか」
「そうっす。世界中の紳士淑女に愛を伝える愛を届ける天の使者、天ちゃん、透くんの生命力が弱ってるのを『ピーン!』と感じ取り馳せ参じました!間に合ってよかったっすよ」
「天使がお迎えか」
「しかも白衣の天使っす!」
言葉通り、なぜか天ちゃんの服装は純白のナース服。すごいミニスカートだけど、看護師さんってズボンだよな?胸元もやたらと開いて谷間を見せつけてるし。どう見てもコスプレ衣装。
「よかったっすね、この世界に留まれて」
「ありがとう。フラフラで動けなくなった後、身体が浮かんだ感覚があったから完全に死んだんだと思った」
「大急ぎでお家に運んだらちょうどリーフちゃんが起きてきて、バタバタしてたらオリサちゃん達も起きたんすよ。昨日のお湯が冷めて水風呂になってましたから運が良かったっす!」
「ああ、そうです。改めて報告なのですがトールさんの服は緊急だったので裂いてしまいました。申し訳ございません」
「ああ、気にしないで。汗吸ってたから切りにくかったでしょ」
「いや?わたしの握力なら紙も同然だ」
「それにわたくしの短剣の切れ味のおかげで容易く」
さすがだな。
「今の感じだと、ぜんぜん記憶がないみたいっすね」
「なんの記憶?」
「厩舎でトールくんを保護してから水風呂に入れてるあいだも、みんなでずーっと話しかけてたんす」
そうなのか。
「覚えてないな」
「一応、目を開けて会話もしていました」
「マジで?」
「マジっすよ。途切れ途切れっすけど返事もしてました」
「トールさん、ずっと謝っていましたね」
相変わらず、すぐ謝る謝罪星人だなぁ。
「それから、あたしを見て――」
「オリサ、その話は」
「あ……あの、ごめん。やっぱりなんでもない」
ルルに遮られたオリサが困った顔で言葉を切った。なにか変なこと言っちゃったかな。怖いな。