「ガールズ・オブ・サマー」part2
今日もあっという間に夜の団らんの時間だ。しかし、穏やかではない。
「虫きらい!」
「ミミズは平気なのになぁ」
「足いっぱいあるのきらい!」
「そういうことか」
俺は虫もミミズもダメだけど。
「ヤダよぉ、お外で遊びたいけど暑いし虫たくさんいるし、出たくないよぉ」
「困りましたね」
「まだ七月も終わってないし、あと一か月以上家から出ないのは辛いだろうな」
「ならばトール、朝話したことを実行に移すのはどうだ?」
どんな話をしただろうか?
「え、なんだっけ?」
「お前は、まったく。暑さで記憶も蒸発してしまったか?海や川に遊びに行こうと行っていただろう。そこまで極端に遠いわけでもあるまい?」
「あー、たしかに話したな。オリサ、どうだ?海」
「うみ……行きたい」
なら決まりだ。
「リーフ、どう思う?」
「素敵です。実はわたくし、海で遊んだことがないものでして」
意外だな。こんなに長生きしてるのに。
「オークの巣くった島に奇襲を仕掛けるため、仲間と共に泳ぎ海峡を渡ったくらいの経験しかなく」
娯楽としての海は未経験って意味ね。リーフの武勇伝にも慣れたもんだ。
「たまには魚も食べたいな。なめろうという料理に興味があるのだ」
「聞いたことあるけど食ったことないな」
「酒に合うらしい」
「やっぱそういう理由ね」
みんなかなり前向きに考えてるようだ。
「じゃあとりあえず、みんな海に行ったら何がしたいかとか考えといて。明日ゆっくり話そうか。動物のこともあるし、やりたいことと心配なことを確認しよう」
「ええ、それがいいですね」
「考えたことなどはそこのホワイトボードに書いておくことにすればいいな」
「うん、あたしもお魚食べたいなぁ」
いつもの雰囲気になってきた。春以来の旅行だし、ワクワクが止まらない様子だな。
いや、それは俺もか。
・・・・・・・・・・・・
「お前らそんなに楽しみなの?」
「えへへ」
風呂から上がればホワイトボードにはびっしりとメモが書かれていた。『鯵なめろう』『しめ鯖』『鰹のタタキ』――、これ書いたのルルだな。まとめて『魚料理』でいいじゃねぇかよ!
「実はわたしもオリサも海に行ったことがないのだ」
「マジか。そら気合入るわな」
「ですので、つい明日を待たず書き始めてしまいました」
「楽しそうだから見学させてもらおうかね」
麦茶を片手にソファーに腰掛け、ホワイトボードの前で嬉しそうに話し合う三人娘を見つめる。時計を見れば現在八時。十時前には終わるかな。みんな楽しそうでよかった。
いい旅行にしたいもんだ。
・・・・・・・・・・・・
「寝坊確定だな」
リーフ以外は。
予想に反して日付が変わってしまった。
「旅行自体が久しぶりだもん!」
「家族全員での旅行を前提に考えております。実現すれば初めてのことですよ!」
「家畜の餌や野菜の水やりなど、問題の解決策は明日ゆっくり検討すればいい。まずは願望と懸念事項を挙げられるだけ挙げろ!」
「おーよ!」
「おーです!」
すんごいハイテンション。実際に海に行って『思ってたよりゴミが多い』とかガッカリされないか心配だなぁ。




