短編6「飲んでも飲まれるな」part8
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今のは本当にわたしが言ったのか?」
「うん、そうだよ」
「思い出した。演説の途中から感極まって泣き出したんだよな」
「そうそう」
「ルルちゃん、熱血ぅ!」
「それで言いたいことが終わったら脱ぎ出し――」
「なぜだ!?」
そんなん俺が一番思ってたわ。
「えっとね、なんか『世話になっているトールに恩返しをする!悔しいが、わたしからトールに与えられるものなど、この肉体しかない!』とか言ってて。ルルちゃんは脱ぎ出すしトールは顔を赤くして慌てるしで大変だったの」
「すまない……」
「かなり驚いた」
「あたしはイマイチよくわからなかったんだけど」
「ルルちゃん、体は大切にしなきゃダメっすよ」
「天ちゃんに正論を言われる日が来ようとは……」
確かにその通りだ。
「そんなわけで俺は見ないように目を閉じてたんだけど、ソファーに押し倒されてな。ルルは次の瞬間、そのままコテンと寝ちまったんだよ」
「ルルちゃん起きる気配ないからトールもそのまま寝ることにしたの。でも、寝られなかったんだよね?」
一睡たりとも出来なかったな。
「そう。それで今に至る。眠い」
「迷惑をかけて本当に申し訳ない」
「まぁ、一ついい経験になったじゃないっすか」
「今後に活かしてくださいませ」
「ありがとう……」
本当に長い夜だった。それにしても、昨夜のルルのあの発言はなんだったんだろうな。俺しか聞いてないと思うが……。
「ねぇトール、まだ何か言いたいことあるの?」
あれ、そんな顔してたか。実はルルに聞きたいことがあるんだけど、みんなの前で言っていいのかな……。
「トール!どんなことであっても構わない。決して怒ったり喚いたりしないと約束する。わたしの言動でまだ何かあるなら教えてほしい。全てを!反省のためにも」
「いいのか?」
「リーフだって昨日、包み隠さず自分の失敗を報告しただろう?わたしとて同じ気持ちだ。ドワーフに二言はない!ドワーフの教科書の見開きにもそう書かれている」
「ドワーフの教科書ってなんだよ」
まぁルルは約束を反故になんてしないだろうしな。そこまで言うなら良いか。
「えっと、それなら。オリサはもう寝てたけど、夜中にルルが寝言言ってたんだよ」
「へー」
「それで気になったんだけどさ。なぁ、ルル。もしかしてさ、お前のその堅苦しい話し方って、あの……作ってるのか?」
「ちょおわあぁぁぁ!と、ととと、トール!ま、待て!その話はやめよう。な!な!?」
「ルルちゃん、さっきと言ってることが違うっすよ〜」
「ドワーフに二言は無いのでは?」
「んぐぅ……。わ、わたしは何を言っていたんだ……?」
「モノマネじゃなくて悪いけど。リーフみたいなすごく優しい声で『トールくん、ありがとうね』って」
「ぬぁぁぁぁ!!」
「え!ルルちゃんホントはそんな話し方なの!?」
「あと他にも『オリサちゃんもリーフさんも天ちゃんさんも大好き。みんな大好き。わたしはキミの世界に来て良かったなぁ』って嬉しそうに言ってた」
「んぐぐぐぐ!」
「それから『ねぇトールくん、いつもみたいにナデナデしてほしいなぁ』って。俺が撫でたら嬉しそうな顔をして寝息立て始めたよ」
「うわぁぁぁ!くっそぉぉぉ!」
ルルが頭を抱えて悶えている。マジか。
かなりハキハキ話してたけど寝言だったのかな?
「最初は聞き間違いかと思ったけど、間違いなくルルが喋ってたからめちゃくちゃ混乱した」
「ルルさんは初めてお会いしたときから今の話し方ですが、故郷では違ったのですか?」
「…………………………」
「あれ?ルルちゃん?」
「めっちゃ考え込んでるっすね」
ルルは目を閉じたまま深呼吸をしている。そんなに悩むか。意を結したように面を上げ重い口を開いた。
「あの……リーフさんの言う通り、その……田舎にいた頃はオリサちゃんみたいな話し方だったの……。迷惑をかけて、ごめん、なさい……」
「かわいい!えー!ルルちゃんかわいいよ!」
「今だけ、今だけは反省のためにこれだけど、朝ごはん食べたら戻すから。オリサちゃんお願い、からかわないで。撫でないで……」
「リーフ、すまん、今日は朝飯抜きにしようか」
「もちろん構いませんよ」
「あたしも我慢する!」
「ねぇ、トールくん!本当にごめんって!お願いだから許して!ね、リーフさん、オリサちゃん、わたしが悪かったからさぁ……」
素の話し方のルルがかわいすぎる。いつものツンツンしたちびっ子もかわいいけど、小さなお姉さんって雰囲気の今の姿もかわいすぎだろ
「ルルちゃん、喋れば喋るだけ自分の首絞めてるっすよ」
「ルルちゃんかわいいなぁ、いい子いい子」
「オリサちゃん、撫でないでよぉ……」
「ルルさん、なんと愛らしい」
「抱っこしないで。せめてリーフさんはみんなを止めてよ、ねぇ」
「そうだ!リーフちゃん、ビデオカメラ!」
「そうでした!せっかく旅行で手に入れたのですから使わねばもったいないです!」
「嘘でしょ!?お願いだから残さないでぇぇ!」
「それにしても、手前まで大好きって言ってくれるなんて、ルルちゃんはかわいいっすねぇ、うへへへ」
「て、天ちゃんさん、お、お願いだから涎垂らして近づかないで!ひゃぁぁぁっ!」
もうちょい見ていたいけど眠い。
「ふぁ……ねみぃ。とりあえず一件落着だよな。そんじゃ、俺は寝るから。みんな、家畜のこと頼んだ」
「うん、トールおやすみ」
「おやすみなさいませ」
「添い寝しましょっかー?」
「いらね。おやすみ」
「いや、おやすまないでよ!ね、トールくん!お願い!二人ともトールくんが言わなきゃ止めてくれないから!君の指示ならちゃんと聞いてくれるし、お願い!ね、いつもの話し方に戻していいでしょ?ね?みんなでご飯食べよ?お腹すいたんじゃない?ね?」
「おやすみー」
「お願いだからさぁぁぁ!」
結局、俺たちはたっぷり素のルルを満喫して朝食にした。
血糖値が上がっていよいよ眠気がマックス。
「ふぅ……。食べ終わったことだし、もう普通に話すぞ。今日から10日間、わたしは禁酒する」
「ルルちゃん、そんなこと言わないでよ。はい、ウイスキー」
「ぶどう酒もございますよ」
「『昼から飲むビールは禁断の味』って昔付き合ってた人が言ってたっすよ」
「お前たち、わたしを酔わそうとするな!」
「今度こそおやすみ」
今日も我が家は平和だ。
短編6「飲んでも飲まれるな」
完