短編6「飲んでも飲まれるな」part7
「んん……?うぅ、のど、が……」
起きたか……。やっと起きた……。疲れた……。
テーブルのコップに手を伸ばした。
「おはよう、ほら水」
「ありがとう…………んぐ、んぐ、ぐ!?んむぶっ!?ぶはっ!はぁっはぁっ!と、トール!なぜ女部屋に!?」
「ここはお前達の部屋じゃねえからだよ。調子はどうだ?」
「んむ……本当に久しぶりに二日酔いだ。いかん、昨夜の記憶がない。リビング……?まさかお前をベッドにするとは。迷惑をかけてすまない……トール?なぜ目を開けないのだ?」
俺はリビングのソファーに仰向けで横たわっている。腹にはルルを乗せて。ついでにルルが噴き出した水を顔面にぶっかけられたし。顔ビシャビシャ。もうティッシュに手を伸ばす気力もない……。
「拭かねば。悪いな」
「どうも」
ルルがテーブルのティッシュに手を伸ばし俺の顔を拭く。疲れ果てて無抵抗を決め込んでいるが、早く自分の部屋に戻りたい。
「ん……ルルちゃん、おはよぉ……」
「オリサ、お前もここで?」
「ルルが心配だからって付き合ってくれたんだよ」
「そうなのか。二人とも悪いことをした。酔って変なこと言ったりしてなかったか?ふふ、さすがにそんなことないか」
あるんだよなぁ、コレが……。
「ん……それにしても、こうしてトールに乗っているのも心地よいな。せっかくこの家では小柄なわけだし、たまにはこうして甘えるのもいいかもしれん……なんてな。ふふふ」
まだ酒が抜け切ってないのか、いやに上機嫌だ。嬉しそうに俺の胸に頭を乗せて目を閉じる。参ったな。可愛いけど、俺は今すぐにでも自分の部屋に戻って休みたいんだが。
「んん、それにしてもなんだが本当に気分がいい。胸に支えていたものを全部吐き出したような、裸で絹に包まれているような気分だ」
「うん、どっちもその通りだな。絹じゃなくて、普通の毛布だけど」
「は?」
「あの……ルルちゃん、とりあえず服着ようか」
「はっ?」
うっかり目を開けないよう気をつけねば。
「ひゃあぁぁっ!!な、なぜわたしは裸なんだ!な、何が起きている!なぜ裸でトールに抱きついているんだ!?」
「ルルちゃんが脱いで、ルルちゃんが抱きついたんだよ。トールは悪いことしてないからね。あたし見てたから間違いないよ」
「なっ、どういうことなんだ!?お、オリサ、教えてくれ!」
「目を閉じてるから、とりあえず着替えてくれ」
「わ、わかった。……な、なんで全裸なのだ!?」
いつの間に下まで脱いでたんだよ……。
「おはようございます。ルルさんの悲鳴が聞こえたのですが……」
「うわっ!ルルちゃんなんつー格好を!あ、そっか!トールくん、ご卒業おめでとうっす。証書作ってプレゼントしましょうか?」
「え?トール何か終わったの?」
「言いたかねぇけどまだ卒業してねぇよ。ルル、服着たか?」
「わ、わたしの下着はどこだ。どこにあるんだ!?」
「ルルちゃんのパンツ探してー!」
「これですね」
「なんでエアコンに引っ掛かっているんだ!」
「勢いで投げたのかな?」
「ルルちゃん、案外大人っぽいパンツなんすね」
「い、いいだろう!」
もうやだ……。
・・・・・・・・・・・・
「本当に何があったのだ……?」
「何から話そう。俺寝てないから頭働いてない」
「トール大変だったよね」
「あ、あの、わたしのせい……なのか……?」
「「うん」」
「マジで何があったんすか?」
「朝食はもう少々お待ちください」
「悪いけど、俺は食ったら寝る。家畜のことはみんな頼んだ」
眠すぎて頭痛くなってきたわ。
「何から話そう?」
「ルル、お前どこまで覚えてる?リビングでウイスキー飲み始めてからのこと」
「飲み始めて……あ」
お、何か思い出したか。
「と、トールと向かい合わせで膝に座り……その……」
「頬に熱烈にキスされたわ」
「あぁぁ!!お、思い出した!すまん!悪かった!」
「でもルルちゃんその後が凄かったよ」
「なんだと!?」
「俺の耳を甘噛みしたり舐めたりしたことは?」
「はぁぁぁっ!?」
「あらあら」
「ルルちゃん、ズルいじゃないっすか!トールくんのお耳は手前のっすよ!」
「誰のでもねぇよ、アホ!」
ああ、いかん。デカい声出したら頭に響いた。
「それで、ルルが『トールに大人の色気を見せてやる!』って言って脱ぎ出したんだよ」
「そ、そうなのか……」
「あれ?裸になる前に泣き出しちゃったんだよ」
あ、そういやそんな順番か。聞いてる側が恥ずかしくなるようなこと言ってたなぁ。
「あら。何か悲しいことがあったのですか?」
「逆、逆」
「ちょっとルルのモノマネしてくれよ」
「いいけど、昨日のルルちゃんの言葉はあたしも恥ずかしいんだよねぇ……」
「き、聞きたくないが教えてくれ……」
「それじゃ、んん!『トール、オリサ、わたしは、わたしはお前達に会えて本当に幸せだ。わたしはお前達に会うために生まれてきたのだ!異なる世界で生まれたわたし達が家族になるだなんて想像できたか!?いいや、誰にも想像できまい!リーフも含めたお前達に出会えた幸せをわたしは忘れはしない!お前達はわたしの弟妹だ。困ったことがあればわたしを姉と思い何でも相談するのだぞ。お前達、愛している!心から愛しているぞ!大好きだ!』って」
話の途中からルルが両手で顔を押さえてテーブルに突っ伏してしまった。足をバタバタと動かしている。思い出したか、はたまた普段から本当にそう思っていたのか。
「ルルちゃん、超アツいっすねぇ」
「そのように思っていただき光栄です。ちなみにわたくしはおばあちゃんでしょうか?」
「あ、姉だと……思っている……」
あ、普段から思ってたことを酔ってぶっちゃけちゃったってことなのか。
「ルルちゃん、言葉にはしないけどいつもそう思ってたんすねぇ。いい家族愛じゃないっすか。手前は感動しちゃいましたよ」
「恥ずかしすぎる……」
「あ、ちなみにさ、んん!リーフさん、わたくしのモノマネはいかがでしたか?」
「うぉ!すごい!完璧っすよオリサちゃん!今度、手前のモノマネもやってください!」
「驚きました。わたくしそっくりです。ふふ、妹がいたらこのような感じなのでしょうか。嬉しいですね」