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短編6「飲んでも飲まれるな」part5

「実りある旅だったようで何よりだ」

「ルルちゃんごめんって」

「半端に無垢というか、おっとりしたリーフの性格が悪い方向に向かったようだな」

「凄かった」

「身を持って経験した、いや、させられた」

「すんません」


 リビングでルルが飲み直すというので俺とオリサはせっせと酌をしている。グラスが空いたらすぐさま注ぎ足しあっという間にウイスキーの瓶が六本も空になってしまった。それでも普段通り話せるドワーフは大したものだ。

  リーフと天ちゃんについてはスルーしておこう。うん、それがいい。


「それにしても、リーフのあの行動にオリサが怒ったか。ふふふ、お前も成長したじゃないか」


 言葉が途切れるとすぐさまウイスキーを口へと運ぶ。原液のまま飲むのはロックだったか、いやストレートと言ったか。ルルに教えられたが忘れてしまった。麦茶のようにスルスル飲んでしまう。アルコール度数40%って案外大したことないのかな?

 でもさすがに六本は飲み過ぎじゃないか?俺だってコーラが好きでも五本も六本も飲めないぞ。


「というと?」

「よくわからないけど、あたしは毎日成長してるよ!」

「なぁオリサ、子供はどうやって授かるものか知ってるか?」

「な!」

「お、おい、ルル!?」


 こいつ、酔ってるのか?よく見れば頬が少し赤くなって目つきもいつもの鋭さがないような気がする。


「お、お前何を聞いてるんだよ」

「ぷっふふふ、ふふふふ。なあ、トールよ。オリサはな――」

「ルルちゃん、あ、あのさ、さっきのことは謝るから、ね?トールにそれ言うのはやめようよ。ね?ね?」


 なにやらオリサが大いに慌てている。どうした。こんなに慌てるのは珍しい。


「お前ら、何があったんだ?」

「いや、なに、ドワーフの情けで詳しくは言わないが、オリサは『結婚してキスをすると子供を授かる』と思っていたそうだ」

「る、ルルちゃん!言っちゃってるじゃん!ちょ、え、あの、わーっ!わーわーっ!!トール、き、聞こえてないよね!?ね?ね?」


 騒ぐタイミングが遅すぎるわ。

 ルルの容赦のない暴露にオリサが顔を真っ赤にして抗議している。


「思いっきり聞いちまったよ」


 苦笑いを抑えきれない自分がいる。俺のこと散々からかってた割に、オリサって案外初心(うぶ)なんだな。

 いかん、いつもにも増してかわいいと思ってしまった。


「お前もなかなかに容赦ないな」

「ふふ、仕返しだ。トールについては特に秘密を知らないのが残念だな」


 ああ、そうかい。まったく、とんでもないことを聞かされたな。


「せいぜい、本棚の裏に――」

「なんで知ってんだよ!」

「やはり持っていたか」

「なっ!!」

 

 ブラフ……だと……!?

 

「うぅぅ、恥ずかしい」


 オリサは真っ赤な頬に手を当て狼狽している。良かった、今のは聞かれずに済んだらしい。ルル、案外怖いやつだな。


「何がどうなったらそんな話になったんだよ?」

「前回の旅行でゴム製品を教えてくれただろう?」

「ああ」


 愛を育むホテルの部屋に備え付けられていた、極めて薄く作られたゴム製品のことだな。何なのか聞かれてルルに教えたんだっけ。


「わたしからオリサにあれが何に使うものか教えようとしたのだが、どうにも話が通じないときたもんだ。詳しく聞いてみれば、オリサは『結婚してキスをすると子供を授かる』と思っていたらしい。どうだ、傑作だろう」

「ルルちゃぁん、悪かったってばぁ……」


 さすがにオリサが哀れに思えてきたが、話を聞く分には面白いから困ったものだ。


「ねえ、トールは知ってた?」


 もう腹を括ったのか、オリサがおずおずと問いかけてきた。答えにくいこと聞くなぁ。


「まあ、知識としてはあるけど」

「経験は?」

「え」

「ないだろう」


 うるせえな!そうだけどさ。


「オリサ、ちょっとトールの手を握ってやれ」

「え、いや、それは」

「何回も握ってるのになんで?ほい」


 無垢なオリサの柔らかい手が俺の右手を包んだ。あったけぇ。


「トール?大丈夫?固まっちゃったけど」

「お、おう」

「女慣れしていない緊張した様子から見ても、清い身なのは間違いないな」

「そ、そんなことねぇし!世界がこうなる前は彼女たくさんいたっつーの!もう毎日違う子と遊んでましたわ!」

「それはそれで最低だな」

「うん、サイテー」


 ごもっとも。動揺して最低のチャラ男になってた。吐かなくていい嘘を吐いてしまった。


「それで、どっちなの?」


 わからないのか!情けないけど、こんなに露骨に動揺してるのに。


「女慣れしているというのなら、わたしが何をしても平常心でいられるだろう?なあ、坊や」


 ルルはそう言うとグラスを置いて俺の座るソファーに近づいてくる。

 その顔はほんのりどころかアルコールが効いて真っ赤だ。一気に酔いが回ってきたらしい。


「おい、ルル、お前飲み過ぎだぞ」

「何を言う。確かにお前たちがいる嬉しさからだいぶ飲んでしまったが、こんなのまだ序の口だ。そんなことより、トール。お前はわたしには緊張しないのではないか?」


 まあ、オリサに手を握られたときほどの緊張はないよな。


「理由はわかる!お前はわたしを子供だと思っているのだ!誰が『可愛い幼女』だ!?何が『愛らしいお嬢さん』だ!ふっふっふ、そう言ったことを後悔させてやる」


 言ってねぇ!でも、やばい。こいつ完全に酔って勝手に話を作ってる。

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