「妖しいリーフと料理の旅」part33
今日は車で近くをドライブしている。
この近くには城があったという話をしたらリーフが行きたがったので連れて行ったのがきっかけだった。もっとも、その城跡というのは観光地化しているわけでもなく、現在では学校やら県立図書館やら警察署やらが建っているため在りし日の面影はほぼ感じられなかった。当時の様子を知りたがっていたリーフが目に見えてがっかりしてしまったので、近くの資料館などを車で回った次第だ。一応、三の丸には公園があるのだがリーフはそこまでぐっと来なかったらしい。
一方で桜並木があったおかげでオリサは大喜びだったが。もうだいぶ散っていたとはいえ桜が綺麗なのは事実だし。
午後はリーフを美術館に連れて行ってあげようかな。
さて、自分たちで作ることを考えたらそろそろ昼食を考えたほうがいい時間だ。
というか、俺は諸事情あって寝不足だから休憩をマメに取りたい。眠い。
「昼はどうしようか」
「昨日は牛丼だけしか学べませんでしたから、いろいろな種類のお料理を学べると嬉しいのですが」
「それなら前の旅行で使った『ファミレス』ってところがいいんじゃない?」
「そうだな。料理の種類多いし、メニューに写真があるからちょうどいいと思う」
「甘いものの種類も多いもんね!」
「ふふ、それが目当てですね」
「ちゃっかりしてるな」
次に見かけたファミレスに入ることにしてアクセルを踏み込んだ。
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「さて、とりあえずメニュー見ようか」
「あたし飲み物取ってくるね。リーフちゃんは紅茶がいいかな?」
「はい、ありがとうございます」
「俺はコーラで」
「はーい」
テーブル席に腰を落ち着けリーフにメニューを手渡した。学校帰りみたいで、なんだか懐かしい気分になるな。
「たしかに種類が豊富ですね。物価は未だにわからないのですが、これはお手頃なのですか?」
「うん、極端に高いものはないよ」
「お店の大きさといい、調理手順の異なるお料理がこれだけ揃っていることといい、ルルさんが言っていたとおりこの世界の物資輸送手段と保存技術はすばらしいものがあります」
「ありがとう。俺にとっては子供の頃から当然のものだから実感がわかないけどね」
「お待たせー」
「サンキュー」
「ありがとうございます」
「それで、何を作ることにしたの?」
「まだなんにも決めてなかった。ほら、オリサも見るといいよ」
隣に座ったオリサに俺のメニューを広げて見せる。たぶん、オリサの注文はサラダとパフェだな
「ありがと。うーん、いろいろあるよねぇ。トールは全部食べたことあるの?」
「いや、ぜんぜん」
「えー、もったいない。こんなにいろんなのあるなら制覇すればよかったのに」
「いっつもハンバーグとかステーキで満足してたからな」
「ステーキ!」
あ、厄介な地雷を踏んだ気配がする。
「確かにあります!わたくしはこれにしましょう!見た限りなかなかの厚みがあるようですね」
「うーん、あんまり期待しないほうがいいんじゃないかなぁ」
リーフが目を輝かせて指差すステーキは俺も食べたことがあるけど、写真と全く同じとは言えなかったような気がするなぁ。
「あのリーフ、ここは専門店じゃないからあんまり期待しすぎないほうが良いと思うよ」
「うん、あの、リーフちゃん?それならステーキが専門のお店を探したらいいんじゃないかな、あー、行っちゃった……」
オリサと顔を見合わせため息を吐く。この後の流れが容易に想像できるゆえにしんどい。
・・・・・・・・・・・・
「トールさん、何なのでしょうかこれは!面の大きさこそこちらのほうが上ですが、到底このメニューのお写真とは厚みが異なります!薄い、薄すぎます!このような無法が許されていいのでしょうか!」
案の定、冷凍ステーキ肉を握りしめてお怒りのリーフ様が戻ってきた。厚みを気にするのは昨日よくわかった。だからこうなると思ったよ。
「落ち着けって。たぶん早く提供するためにある程度薄くしなきゃ焼くのに時間がかかるんだよ」
「リーフちゃん?ね、落ち着いて?そうだ、今日の晩ご飯はステーキの専門のお店探すのはどう?ね、トール!」
「ああ、それがいい。どうだ、リーフ?ここではグラタンとかスパゲティとか勉強して、ステーキは夜にするといいんじゃないかな?」
「なるほど、そのような手が……。お心遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
よかった。いつもは目を三日月型にして笑ってくれるのに、肉のことになると目尻をキッと上げて怒るからその切替が怖いんだよな。
「では、お二人は何を召し上がりますか?一緒に学びましょう」
「俺はこのグラタンで」
「あたしはサラダとパフェ」
やっぱり。
「では主にトールさんのグラタンの勉強をしましょう。お作りになったことは?」
「ない。ホワイトソースとか、あれって家でできるもんなの?」
「もちろんです。バターと小麦粉と牛乳があれば。早速始めましょうか。では厨房へ」
いつもの愛らしい三日月型の目で手招きするリーフを見て、俺たちは安堵のため息を吐いた。疲れた。食が絡みさえしなければリーフは本当にいいやつなんだけどなぁ。たぶん今、オリサも同じことを考えていると思う。