表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第七章「妖しいリーフと料理の旅」
159/213

「妖しいリーフと料理の旅」part32

 暖かい。

 え、首筋にリーフの息がかかる。

 なんだかすごく居心地がいい。何だこの空間。

 そして俺の背中、肩甲骨の少し下になにか柔らかい感触が。リーフの吐息がかかる位置から身体のおおよその位置を計算する。口が俺のうなじのあたり。ならリーフの肩は俺の肩の少し下にあって、ちょーど暖かくて柔らかい物体が二つも並んでいる……。

 うん、間違いない。俺の脳内のファイティングコンピューターが完璧な計算結果を導き出した。

 背中に当たる柔らかいのはアレだ。

 おいいいいいいぃぃぃぃ!なんなんだよ!寝られねぇよ!当たってるんだよ、リーフの胸がぁぁぁ!

 もう言おう。教えよう。それがいい、そうしよう。じゃないと寝られない。それか間違いが起こる。

 俺だって年相応の男なんだから、このまま五分も十分も耐えられるはずがない。


「あの、リーフ……?」

「はい?」

「その、すごく近いと、思って……」

「ふふ、そうでしょうか?」


 これは天然なのだろうか。とにかく、さっきから背中に柔らかいモノが当たっているのだが……、どうやら彼女は気づいていないらしい。指摘しづらいけど言わなければならないようだ。


「あ、あの、何ていうか、さっきから、俺の背中に当たってるんだよ……」


 いくら『超低コンテクスト文化』なリーフでも、自分の体の話なのだから気づいてくれるはずだ。


「あら?いったい何が当たっているのでしょうか?」


 わからんのか!なんで自分でわからないんだ。


「その、む、胸が。リーフの胸だよ」


 言わせるなよ、恥ずかしい。気を抜いたら背中に全神経が集中しそうなんだから。


「当たっているのではありませんよ?」


 背後から随分余裕のある返答が返ってきた。どういうこと!

 俺の首とベッドの隙間を通ってリーフの右腕が現れ、彼女に腕枕される体勢になる。更に彼女の左腕も俺に覆いかぶさり、混乱しているうちにリーフに抱きしめられる形になった。背中に当たる柔らかさの面積、圧力が増す。

 ヤバい。

 今までにないほど接近したリーフからは、何か温かみのある優しい香りがする。ルルが夢中になるわけだ。

 これはヤバい。


「トールさん……」


 声が近い。俺の耳にリーフの吐息が当たる。


「この胸は、当たっているのではありませんよ……」

「は?」

「当てているのです」


 官能の気配を隠そうともせず、リーフのささやき声が耳を通り俺の脳を支配した。

 ヤバい。

 ヤバい!

 これはヤバい!!

 なんだこの状況!リーフに突然迫られている。ヤバい。ラストだけウィスパーボイスだったの、威力が高すぎる!

 ヤバい!

 どう返答するのが正解だ。行動で示すべきなのか。

 いや、そうじゃない!そんなことする気はない!そんなの間違ってる!リーフはどういうつもりなんだ!わからん!わからん!何がどうなってる!


「緊張しているのですね。落ち着いてください。今までにないほど鼓動が早まっていますよ。この耳が容易に感じ取れるほどに心臓が跳ねています。ふふ、そんなに緊張していただいて、わたくしもまだまだ捨てたものではありませんね」


 なんという圧倒的な余裕。凄まじい肉食っぷり。


「あら、もうこんな時間ですね。夜ふかしをしては明日のお料理に響いてしまいます。そろそろ休みましょうか」


 枕元の時計が見えたのか、先程とは打って変わって普段どおりの話し方でリーフが解散の意思を表明する。

 や、やめないでください、女王様!

 じゃない、そうだ!もう寝るべきだ!


「ふふふ。おやすみなさい、トール」


 再び耳元でつぶやく。ねっとりと。

 同時に指先で俺の顎のラインをなぞる。ゆっくりと。就寝を惜しむかのように。


 凄いの来た!

 スゴいの来た!!

 最後にすごいの来た!!

 俺の体を開放しゆっくり離れるリーフ。そのままリーフの気配は部屋を出ていってしまった。名残惜しい。だが、仲間にそんな目を向けるわけにはいかない。

 落ち着け、俺。

 がんばれ、俺。

 早く寝ろ、俺。

 ダメだ、熱い。体が熱い!頭が熱い!脳内にリーフの言葉が響く。


『おやすみなさい、トール』


 おやすめるか!

 なんだろう、信じられないくらいエロかった。耳元に掛かった吐息が忘れられない。突然の呼び捨て、威力ハンパない。

 リーフは俺から手を出すのを待って敢えて離れたのだろうか。

 気になる。

 だめだ、リーフは家族だ。そんなことできるわけがない!

 落ち着け、俺。とにかくさっきの出来事を頭の外に追い出せ!羊でも数えるか?何か考え続けて冷静になれ。



 助けて、仏様!

『仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜……』はんにゃーはーらー……えっと、はーらーみーつー……、だめだ、この先がわからん。

 あれ、唐突に気になったけど、なんで天使の天ちゃんが教会でもなく寺に住んでるんだ?いや、そんなんいいから、次!何かないか。



 助けて、園斎!

『拙者親方と申すは、お立ち会いのうちにご存じのお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方……』なんだ?上方、かみがた、髪型?たしか、長州小田原……、小田原おでん……違う。

 あれ、小田原なら長州のはずないよな。なんだっけ……。ちゃんと言えなくて何がしたいんだタコこら!カタチ変えるぞこのタコこの!


 少しずつ落ち着いてきた気がする。よしよしよし、他に何かないか。何か長い言葉。雑学本に載ってたアレはなんだったか。



 助けて、タイ王国!

『クルンテープマハーナコンアモーンラッタナーシーコンスクエア……』違う。途中からよくわからなくなった。

 いや、そもそもいま考えたバンコクの正式名称が合ってるかどうかわからん。


 あ、少し落ち着いたと思ったのは気のせいだったかも。あああああぁぁ悶々とする!

 どうする、エレベーター前の機械で売ってるビデオカードを買ってきて気分転換を……いや、リーフの耳ならドアを閉めても聞こえるかもしれないから却下!

 ざ、座禅だ。座禅を組め!


 その後しばらく座禅を組み心身を落ち着けてからやっと就寝するという地獄の時間を過ごした。

 リーフ、いったい何を考えているんだ。

元ネタ集

・「何がしたいんだタコこら!カタチ変えるぞこのタコこの!」

 元プロレスラー長州力さんが怒ったときの言葉です。「タコ!」「コラ!」多め。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ