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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第七章「妖しいリーフと料理の旅」
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「妖しいリーフと料理の旅」part27

「ショートスリーパーのリーフがどのくらい星空を眺めるかわからないから、先に寝ちゃうかもしれないよ」

「もちろん、あまり長居はせずに戻るつもりです」


 椅子を二脚、大きな窓辺に移動して腰掛ける。暗闇の中で月明かりに照らされた建物が並んでいるのが目に入った。人気のない建物群はなんだか不気味さを放っている。


「これほど高い建物がいくつもあるというのは不思議な気分です。それも神殿などではなく宿泊施設というのだから驚きですね」

「これでもまだまだこの地域は田舎だけどね」

「驚きの連続です。それにしても、自宅に比べると空に近いにもかかわらず些か星が見づらいですね」

「この辺りはうちに比べると緑が少ないのも影響してるのかな。うちの近所と違って高めの建物がたくさんある環境が、リーフに圧迫感を与えているのかも」

「正直に申し上げますと、若干の息苦しさを感じます」

「やっぱりか。それなら、東京に出たらすぐ帰りたくなっちゃうかもな」

「映画で見た限りですと、その通りかもしれません。ですがこの国家において最も栄えた町というのは非常に興味深いです。どうか、お暇なときに連れて行ってくださいね」

「ああ、約束するよ」


 その後も俺たちはゆったりと話に花を咲かせた。リーフからは高校生活について、部活について、空手について、俺からは今の生活の感想などを質問し合った。今まで気づいていなかったけど、リーフもまたルルやオリサと同じく好奇心が旺盛なようだ。そうじゃなければ千歳を越えて異世界へ踏み出そうなんて思わないか。未知の物事に逐一興味深そうにしてくれる彼女は話し甲斐がある。ついつい時間を忘れて長話をしてしまった。



「そろそろお休みになったほうがよろしいですね。歯は磨きましたか?」

「母親みたいだね。さっき部屋に戻ったときに磨いた。……たしかにちょっと眠い」


 指摘された途端眠気が強くなった気がする。自然とあくびが出てしまった。


「どうぞこちらへ。ゆっくりおやすみなさいませ」

「ありがとう……、え、あれ?あの、リーフ?ここで、寝る、の?」


 リーフの先導に従ってベッドに寝転がったら当然のようにリーフも俺の寝床に入ってきた。彼女が枕元のスイッチを操作するのに反応し、室内が薄暗くなる。

 俺に寄り添って横たわるリーフの右の手のひらが俺の左手を包み込む。なんだこの状況。まったくの想定外だ。

 ひんやりとしたシーツとは対象的に人肌が暖かい。ささくれ一つないリーフの手が柔らかく心地いい。

 見ればリーフは優しくこちらを見つめている。薄暗い室内でもリーフの金髪は上品に輝く。普段は右目を隠すように降ろされている髪が重力のままベッドに垂れ、美しい双眸を開放する。共に過ごして二か月以上経つのに、未だリーフの美しさに見とれて碧眼(へきがん)から視線を動かすことができない。


「トールさんがお休みになるまでお供します。たまにはこのような夜があってもよろしいでしょう?」


 よろしいのかな。緊張して眠れなくなりそうなんだけど。そんなことを思いながらも瞼の重さには勝てない。

 リーフは今俺を見つめているのだろうか。鼻毛出てたりしないかな。一日一緒にいたんだし今更か。眠ってよだれ垂らしたらどうしよう。恥ずかしいぞ。

 ああ、それにしてもリーフの手、暖かいなぁ。柔らかいなぁ。もっと強く握りたいけど、そんなことしたら眠気が飛びそうだ。手だけじゃなくて金糸のような髪にも、絹のような頬にも触れてみたいな。頼んでみようかな。断られたりしないと思うけど、でも嫌がられたらどうしよう。

 左手を包むリーフの手が離れた。部屋に帰るのかな。残念だけどリーフも眠いよな。

 俺の無念を感じ取ったのか、先程俺の手を握っていた手のひらが俺の頭を撫で始めた。なんだろう、子どもに戻ったような安心感と心地よさだ。ああ、気持ちがいい。ずっと撫でていてほしい。リーフ、ああ、いつもありがとう。先月の小旅行に行く前の晩も眠れない俺を寝かしつけてくれた。なんて安心するんだろう。


「トールさん……」


 リーフが俺を呼んでいる。


「愛していますよ。いつも、本当にありがとうございます。あなたに会うことができて、わたくしの人生は素晴らしいものになりました。ああ、異なる世界の君よ」


 頬に柔らかく暖かな感触が触れた。ゆっくりと俺に押し付けられる。


「大好きです」


 二度、三度と暖かい感触が頬に触れ、その度に湿り気を帯びた小さな音が鳴る。その感触の中心からリーフの声が聞こえた。


「トールさん、ずっといっしょですよ」


 俺の頭を柔らかく暖かいものが包み込んだ。なんだろう、少し前にもこんなことが。安心する。

 そうだ、オリサの胸で泣いたときのあの感覚だ。

 リーフ、いつもありがとう……。

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