「妖しいリーフと料理の旅」part25
俺たちはとりあえず一番近くにあるタイ料理屋へと足を伸ばした。いつもどおりに俺が鍵を開け扉をくぐると、すぐさま異国情緒溢れる香りが歓迎してくれた。
「おお、店に入ったらもう不思議な香りがしてるな」
「ハーブの香りですね。これはコエンドロではないでしょうか」
「なにそれ、初めて聞いた」
「えーっと他にはコリアンダーとかパクチーって言うみたいだよ。日本語がコエンドロ」
「あ、パクチー!やっとわかった」
「色んな言葉が頭に入ってるのって便利だけど考えものだね」
「そうですね。ここは日本だというのに、トールさんは日本語名をご存知ない様子でしたし」
「うん、ぜんぜん知らなかった。気を取り直してメニュー見ようか」
「なーにがあるのかなー」
「ふふ、楽しみですね」
「トールさんはタイ料理はいかがですか?」
「うーん、あんまり食べたことないなぁ。なんか凄く辛いイメージ。まぁルルはそれが希望なんだけどね」
「このスープ真っ赤だもんね。あたしは辛いものぜんぜんだなぁ。たぶんトール未満。リーフちゃんは?」
「ルルさんほどではありませんが、わたくしも辛いものは好きですよ」
「俺が作ったカレーに追加の調味料入れるとき、ルルとリーフはけっこう入れてたもんな」
ルルに至っては、カレーとライスが全面真っ赤になってもまだ乾燥唐辛子を振り掛けてたし。あのときは見てるだけで汗が出てきた。
「นี่ๆ ลีฟจัง(ねえねえリーフちゃん)นี่เธอดูแค่รูปก็รู้แล้วเหรอว่าต้องทำยังไง(写真を見ただけで作り方わかる?)」
「ดูแล้วก็พอจะเดาได้ค่ะ(だいたい予想できますよ)ว่าต้องทำอย่างไรชื่อของอาหารไทยโดยส่วนมากจะสื่อถึงวิธีการทำด้วยค่ะ(多くのタイ料理は料理の名前がそのまま作り方を意味していますから)」
「อ๋อช่ๆ(あ、そうだね!)ต้มยำกุ้ง(トムヤムクン)แกงเขียวหวาน(グリーンカレー)」
「なあ、二人とも何話してるの?」
「ความลับค่ะ(秘密です)」
「それってタイ語?」
「ใช่แล้ว(そうだよ)โทรุไม่เข้าใจเหรอ(トールわかんないの?)」
「わかんねー」
「わかってるじゃん」
「繋がりましたね」
「いや、どこがだよ!何話してたんだ?」
「ふふ、これが女子会というものです」
「それ、たぶん違うと思う」
散々タイ語でからかわれたわけだが、その後行った中華料理店では中国語、インド料理店ではインド語……じゃなくて、なんだっけ、ヒンディー語とかウルドゥー語とかいったか、複数の未知の言語でからかわれた。結局二人は何を話してたんだろうな。
作者あとがき
この話を書くに当たり、大学院時代の後輩(タイ語母語話者)に私の拙いタイ語を監修していただきました。
この場にて御礼申し上げます。
オリサちゃんが挙げたタイ料理は「ต้มยำกุ้ง(トムヤムクン)」と「แกงเขียวหวาน(ゲーンキァォワーン)」=グリーンカレーです。ちなみにグリーンカレーはタイ語では「カレー」とは言わないのですがわかりやすさ重視で英語での表記もたいてい"Green Curry"です。
なお、ヒンディー語はインドで最も多くの人が使っている言語。ウルドゥー語はインドでも使われていますが、お隣パキスタンの国語です。




