「妖しいリーフと料理の旅」part23
サンドイッチを食べた俺達は厨房に移動していた。練習第二弾開始の鐘が鳴ろうとしている。
「では、次はわたくしの指示したものをお作りください」
あれ、『観察と模倣』じゃないの?
「お二人が作る様子を見せていただき、直したほうがよさそうな点を指摘いたします。わたくしが先に例をお見せしてしまうと癖が見えなくなってしまいますからね」
疑問の答えはすぐにリーフ自身の口から語られた。なるほどな。本当にいろいろ良く考えてるもんだ。
「どっちから先に作る?」
「レディ・ファースト」
「それって女の子を大事にするって意味で、今使うのは変だよね?まあいいけど。それで、何を作ればいいだろ?あんまり難しいのはできないと思うよ?」
「オリサさんの作るものはハムエッグにしましょう。卵は三つでお願いいたします。何度もお作りしていますし、大丈夫だと思います。材料があるのも確認済みです。慌てずゆっくりで結構ですので、よろしくお願いいたします」
「ハムエッグか、ならできるはず!ちょっと待っててね!」
そう言ってオリサは意気揚々と冷蔵庫へと向かっていく。
「俺は別のもの?」
「ええ、その方が待っている時間にわくわくしませんか?」
リーフは案外子どもっぽいところがあるんだな。
「フライパン温めて~、油ひいて~、はい、卵!あ、ハム入れなきゃ、あー、わー、えっとハムも入れて、ほい、あとは蓋をしてちょっと待てば終わりだよねぇ。……まだかな?…………そろそろ?………………あ、両面焼きの方がよかったかな?」
「そこはまあ好みでいいんじゃないか?」
「ええ、オリサさんにお任せします」
「んじゃ、両面にする。フラ~イがーえしはどーこかなぁ、あ、あった。ひっくり返すよー、ほいっと。うん、いい感じ」
「順調そうだな」
「気になる点はありますか?」
「あるにはあるよ」
「では、後でうかがいましょう」
「あ、塩コショウ忘れてた!ほいほいっと、はーい、できたよー!」
「おつかれ」
「ありがとうございます。では、三人でいただきましょうか」
「「「いただきます」」」
食べた感じ、ちゃんとしてると思うな。雑にやってたように見えたけど、味付けもおかしなところはないし。
「美味しいです」
「うん、うまい。ちゃんとハムエッグだ」
「だね」
なんで製作者がちょっと驚いてるんだよ。
「ごちそうさまでした。それでは早速、講評に移らせていただきますね」
「はーい。いい感じだったんじゃない!?」
「ええ、トールさんはどのように思われましたか?」
「美味かったよ」
本当にちゃんと美味かったからそれ以外に感想も出てこない。
「途中、気になった点というのは何でしょうか」
「あ、あれね。んー、料理の味じゃないんだけど、何ていうか、手際が悪いって言うか、なんかワタワタしすぎかなって思った」
「はい……」
おや、急に元気がなくなった。
「オリサさんご自身もそうお考えのようですね」
「うん、作りながら『あー、アレを準備しておけばすぐ次の作業できるのに!』ってことが多かったの」
「それです。何が必要なのか、どの時点で必要なのかを考えて手元に置いておくともっと手際よく進められるでしょう。それともう一つ」
リーフが人差し指を立てる。俺もオリサもその指先に視線を集中させる。リーフはそれをわかってか指をコンロの方へ向けた。
「今の様子をどう思われますか?」
リーフが指差した先には白身の垂れる卵の殻やらハムの入っていた袋やら使わなかったハムやら油のボトルやら塩コショウなどが散乱していた。モノは少ないのだが、だいぶとっ散らかっているな。
「汚いね……」
「ええ、お料理とは『作って美味しければそれで良し』ではいけないのです。次に台所を使う方が気分良く使えなければいけません。そのためには、不要なものを片付けたり使ったものは元の場所に戻しながら料理をすることが重要です」
なるほど、とにかく作ることだけじゃなくてその周りにも気を配れということか。
「例えば先程、ハムエッグを焼いている間はただ待っているだけでしたね。あの時点でゴミを処分、垂れた卵白を拭いて調味料とフライ返しを手元に用意、これだけで大幅にその後の作業が楽になるはずです」
「なるほど、いきあたりばったりじゃダメだよね」
「ええ、ですのでこれからはもっと意識して練習を頑張りましょう」
「うん!」
「それでは一旦片付けてトールさんの番です」
「お、押忍!」
うまくできるかわからんけど、とにかく頑張ろう。