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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第七章「妖しいリーフと料理の旅」
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「妖しいリーフと料理の旅」part22

「リーフ、お待たせ」

「たっだいまー」


 俺たちはそれぞれ四切れのサンドイッチを皿に乗せ、キッチンから客席へと戻った。


「お待ちしておりました」


 リーフは暇を持て余したのか、駅前のロータリーに面した窓側の席から外を眺めていた。朝日に照らされるリーフの髪がキラキラ光る。


「リーフちゃんの髪きれい」


 本当に。


「けっこう待たせちゃったかな。ごめんね」

「いえいえ、それではいただきましょう。まずはお二人で一切ずつ交換してください。そしてわたくしにも一切れお願いします」


 なるほど、最終的に自分で作ったサンドイッチを二切、お互いのものを一切ずつ食べる計算になるのか。それでもちょっとボリューム不足だけど、今日はいろいろ作って食べるのだから仕方がない。


「準備できたよ」

「はい、それではまずトールさんのものから、いただきます」


 なんか緊張するな。


「いただきまーす」

「ど、どうぞ」


 自分で食べる前に思わず二人の反応を見てしまうな。


「トールさんも、召し上がってください」

「あ、はい」


 リーフに笑顔で促された。今までにもカレーを振る舞ったりしたのだからそんなに畏まらなくていいのだろうけど、それでもだいぶ緊張するな。

 美味く出来ていることを祈って自分で作った小さなサンドイッチに齧りついた。味に違和感はないけど、なんだか思っていたよりボリュームがあるような気が。


「トールさん、ご自身で食べてみていかがでしたか?」

「なんか……うーん、口の中が野菜でいっぱいだな。あ、入れすぎたか」

「たしかに。リーフちゃんのに比べて、一口が多い気がする」

「わたくしもそのように感じました。もちろん、人によって適量はさまざまですが、わたくしは朝ということもあり軽く食べられることを意識した分量で提供いたしました。そこがトールさんのお料理との違いですね」


 なるほど。言われてみたら、俺のはちょっとボリュームがありすぎるな。


「ぜんぜん考えてなかったけど、量が多すぎるのも問題か」

「だね。えー、あたしどうだろう。不安になってきた」

「心配なさらないでください。新しいことを始める、誰かに習うというのは失敗するということなのです。わたくしが料理を教えるというのは、言い換えればお二人が失敗することが前提です。最初から上手くいったらわたくしの仕事がなくなってしまいますからね」

「リーフ先生、俺、がんばります」

「はい。ふふ」


 リーフの元でならどんな勉強も頑張れる気がしてきた。人にやる気を出せるのが上手いな。


「では、次はオリサさんのサンドイッチをいただきましょう」

「いただきます」

「ど、どうぞ……」


 さすがのオリサも緊張の面持ちだ。

 なんだかトマトの主張が強い気がするな。というか、レタスが入っているけどあんまり味を感じないというか。


「トールさん、いかがですか」

「うーん、トマトの味をすごく感じるんだけど、レタスがあんまりわからないな。なんでだろう」


 オリサも首をかしげている。


「理由は二つです」


 人差指と親指を立てて示す。いま知ったけど、リーフにとっての『2』はあれなのか。


「まず一つはトマトが厚切りであること」

「あ、そうだね。あたし何も考えないで切ってたかも」

「なるほど。もう一つは?」

「トマトは量が多いから味を強く感じました。そしてレタスはその反対です」


 ヒントはここまでで自分で答えをひねり出せということらしい。でも、レタスの量自体は適切な気がするけど。


「あ、わかった。あたし、レタスを洗った後であんまり水を切らなかったんだ」

「あ、そういうことか」


 目から鱗だった。


「そうです。トールさんのサンドイッチに比べて、パンがほんの少し湿気を含んでいました。トマトの味が強いのに加え、水によりレタスの存在感が更に薄まってしまったのですね」

「リーフすごいなぁ。いつもこんなにいろいろ考えてるの?」

「料理を始めた頃はかなり意識をしましたが、今はあまり。ですが、お二人はこれから意識してお料理を見てください。わたくしの作るお料理やコンビニのお弁当など、よく見て分析をしながら召し上がってください。そして作る際に思い出すのです。それがわたくしなりのお料理上達法です」


 たぶん料理だけじゃなくて勉強なんかにも応用できる考え方だな。


「例えば旅に出る際、目標を決めていつ頃どの街に着くのか考えてから歩き出したほうが安心ですし効率的ですね。何も考えず歩き出したのでは進むことはできるものの自分でも何がしたいのかわからなくなってしまいます。上手く伝わったでしょうか」

「わかりやすい」

「うん、さすがリーフちゃん」

「恐縮です。まずはわたくしのお料理を観察してみてください。お肉や草、失礼、野菜の切り方や調味料の種類などです。そして次に模倣してください。これを繰り返すことでお二人のお料理技術は上がるはずです。もちろん、分析を怠らなければの話ですが」


 リーフ先生すごいな。


「リーフちゃん、教え慣れてるね」

「ふふ、長生きしていますから。『観察と模倣』そしてその反復です。この考え方自体はこの世界の本を読んで身に付けたものですけれども。どうぞたくさんわたくしを模倣してくださいませ」


 頭がいい人と話すのって付いて行くのが大変だな。


「まだまだわからないことだらけだけど、がんばるよ」

「うん、あたしも。早く上手になってリーフちゃんに楽をさせてあげたいんだ」

「ふふ、ありがとうございます。それではもう一切を食べて次に移りましょうか」


 朝練はまだ続くらしい。リーフのおかげで楽しみになってきた自分に気がついた。

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