「妖しいリーフと料理の旅」part21
「リーフ、お待たせ」
「リーフちゃんおはよー!」
「オリサさん、おはようございます」
「髪を纏めてる。料理するモードだね」
「あまり抜けませんが、お料理に入ってしまってはいけませんから。それに後ろに纏めておかないと調理中に毛先が食べ物に触れてしまうかもしれません」
「事故でも入っちゃったらあんま気分良くないよねぇ。そういえばさ、リーフちゃんっていつもは顔の右側を隠すみたいに下ろしてるけど、見づらくないの?」
「え、ええ、まぁ」
リーフの性格なら視界がクリアじゃないの嫌がりそうだと思ったけど、そうでもないのか。
「さて、それでは朝食にしましょう。今朝は食パンでサンドイッチを作りました。食材はありましたので、ある程度の基礎的な練習はここでしましょう。わたくしが身に付けるスパイシーな料理は専門店に移動したほうがいいと思いますが」
「ねえ、リーフちゃん、サンドイッチ小さいよ」
目の前に並んでいるサンドイッチは四切れだけ。それも食パンを四等分にしたものだからかなり小さい。コンビニのサンドイッチを更に半分にしたくらいだろうか。その気になれば一口で食べてしまえそうだ。
「決して意地悪をしているわけではありませんよ。まずはこれを召し上がってください。後ほど追加をご用意いたします。こちらを召し上がる際は、具材の量や切り方などをよく観察してくださいね」
よくわからないけど、既に練習は始まっているのだろうか。
「何も試験ではありませんから、あまり気負わずに召し上がってください。いつもどおりに作ってあります。では、どうぞ。余る一切れはわたくしがいただきます。ふふ」
いいなぁ、などと思ってもいられない。意図することはわからないけど、とにかくよく観察して食べよう。
「それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま……、少ない……」
オリサが俺の抱いた不満を代弁した。観察しようにも、よくできた美味いサンドイッチという感想しか沸いてこない。
「お二人ともお早いですね。それでは次です。奥の調理場へ行って、同じものを作ってきてください。速さを競う必要はありませんよ。わたくしが用意したサンドイッチと同じものです。では、行ってらっしゃいませ」
唐突にイベントが始まった。
追加を用意するのは俺たち自身ってことか。疑問を抱く暇もないままオリサと二人、調理場へと歩き出した。
「食べて何か気づいたことあるか?」
「リーフちゃんのお料理は今日もおいしい」
「同じく。参ったな」
「でも、サンドイッチならそんなに難しくないよね?」
同意見だけど、もしかしたらその考えが甘いということなのかもしれない。
「実は俺たちが気づいていないだけで、隠し味が使われてたとか。パンにうすーく塗られた調味料、例えばバターに気付けるかのテストだったりしたら、俺には打つ手ナシだ」
「あー、あたしもそうだなぁ。でも、リーフちゃんがそんな意地悪なことするかな?」
「しませんよー。ご安心くださーい」
背後からの声に肩が大きく跳ねる。リーフの地獄耳にはいつも驚かされるな。
「了解です、お嬢様」
「ふふ、褒めるのがお上手ですこと」
冗談に乗ってくれているのか、チョロいやつなのか、リーフはそれが全くわからない。
「入ってたのは、かなりシンプルにレタスとトマトとハムだったよな?」
「うん、その三つだった。本当に普通のサンドイッチ」
「材料は全部目の前にあるな。野菜を洗って切って挟むだけ。じゃあ、作ってみるか。ここからは個人作業だな。特に盗むアイディアはないと思うけど、ちょっと距離を取るぞ」
「うん、トールより美味しいサンドイッチ作ってやる!」
もしや、対抗心を燃やして美味いサンドイッチを作るのが目的だったのかな。




