「妖しいリーフと料理の旅」part12
途中で大浴場を確認しレストランも軽く見てから外に出た俺たちを、綺麗な夕焼けに染まった空が出迎える。これなら明日もいい天気になりそうだ。
「明日も晴れそうだね」
オリサも同じことを思ったらしい。この生活になって天気予報も見られなくなってしまったが、先人の知恵というか天気にまつわる格言を調べたらまっ先に出てきたのが『夕焼けの翌日は晴れ』というものだった。実際、雨の少ない季節であることを抜きにしても概ね当たっているように思う。
「ルルちゃんは今頃お酒飲んでるのかな?」
「連絡してみましょうか?」
「え、どうやって?」
「ふふ、こんなこともあろうかと、先程のお部屋でコレを見つけたのです!」
そう言ってリーフは襟に腕を突っ込み胸元から平たい物体を取り出した。あれはスマホ?
「いや、どっから出してんだよ!」
「リーフちゃん、ブラに物入れるのって気持ち悪くない?」
「服にポケットがないのでとりあえず入れられるところにと思いまして。毒針やナイフを忍ばせるよりは気楽ですし。まあ多少は乳頭に引っかかってしまいますが」
「へ、へぇ……」
にゅうとう……。
「んで、そのスマホどうしたんだ?」
「先程のお部屋にあったのです。宿泊中は自由に使えるとのことなので、ならばと思いまして。あら?でもどのようにすればルルさんに連絡がとれるのでしょうか?」
「そもそもの使い方がわからんのね。家の電話番号を入れればいいんだけど、ルル出てくれるかな?あ、天ちゃんなら電話わかるか。ちょっと貸して」
「はい」
あ、あったかい……。
いや、余計なこと考えるな。
「リーフちゃんの体温が残っててドキドキしちゃったんだ」
「ソンナコトナイヨー」
オリサがニヤニヤしながら俺に話しかけている気がするけど毅然とした態度で否定する。毅然と。
「うっわ、スマホ久々に触った」
自宅の番号を入力し、発信。さて出てくれるかな?みんなで会話ができるようにスピーカーにする。
コール音が鳴るのを聞き、神様と初めて会ったときを思い出す。妹に電話をかけたけど出なくて、焦ってたら後ろから話しかけられた。電話を使うのはあの日以来か。
「これで、ルルさんが電話に気づけばお話ができるということですね」
「そういうこと。でも、どうだろ。大きな音が鳴って驚いて電話を壊したりしてないといいが」
「お風呂に入ってたらわかんないよね」
「あー、そうかもな」
三人でスマホの画面を眺めつつ議論を交わしていたら画面の文字が『発信中』から『通話中』に変わった。遅れてスピーカーを通し声が響く。
〈もしもーし!トールくんっすかー?〉
元気な声だ。
「そうだよー。二人がルルに連絡取りたいって言うから電話してみた」
「天ちゃん様、リーフです。今は何をされていましたか」
〈早めにご飯食べて、ルルちゃんが洗い物してくれてるところっす。手前、これから一服しようと玄関に向かって歩いてて、電話の近くにいました。いいタイミングでしたねー〉
「二人とも元気なら良かったよ」
〈ルルちゃん、ここに向けて話してください〉
〈初めて使うから緊張するな。……何を言えばいいんだ?〉
〈『もしもし』って〉
「ルルちゃんがどんな顔してるか簡単にわかる」
オリサが笑うのにつられて俺たちも笑顔になる。
〈もしも。し?〉
区切り方が違う。
「ルルさん、お元気ですか?」
〈おお、声が聞こえる。リーフか、元気だぞ。そっちはどうだ?〉
「あたしたちも元気だよー!」
〈こ、声が大きい。まあそれならよかった。今は何をしているのだ?〉
「リーフに駅ビルを見せてやろうと思ってな。まずはゲームセンターに行くところ」
「わたくしもお写真を撮ってみたいのです!」
リーフが鼻息荒く返答する。そんなに写真に興味があるのか。
〈ふふ、楽しそうで何よりだ。こっちのことは心配せず、ゆっくり楽しんでくれ。リーフの料理に期待して頑張る〉
「ええ、お任せください!」
〈オリサははしゃぎすぎて二人に迷惑をかけるなよ〉
「そんなことするはずないじゃん!なんであたしだけに注意するのさ!」
〈ふふ、冗談だ。だが、リーフがはしゃいでお前達を困らせるなど断じてありえないだろう?〉
「そだねー」
それだけ答えるとオリサはリーフに背を向けて肩を震わせ必死に笑いをこらえる。
リーフは頬だけでなく耳の先まで真っ赤にして恥ずかしそうにしている。旅が始まって早々にしくじったのは言わないでおいてやろう。