「妖しいリーフと料理の旅」part11
「これは……驚きました。本当に高い建物だらけですね」
駅ビルと今夜泊まる予定のホテルを見ただけでリーフが驚嘆の声を漏らす。新宿とか行ったら腰を抜かすんじゃないかな。映画でこの世界の町並みをある程度見ているけど、実際に目にするのはこれが初めてのはずだ。
「東京の方に行くと、これの何倍もデカい建物が大量に建ってるよ。この町はまだまだ田舎だからね」
「あたしたちには規模が大きすぎてナニがなんだかだよ」
「ええ、本当に。今夜はこちらの建物に?」
「うん、ここから入って上がろう」
丁寧に駐車場に止めるのも面倒なので雑に路上駐車し、トランクから着替えの入ったかばんを取り出して早速ホテルへと歩き出した。
「そういえばルルちゃんいないから、鍵を開けられないときはちょっと面倒だね。あたしがドアを焼いちゃってもいいけど、危ないし」
「お前の魔法、そんな火力出るんだ」
ちょっと驚いた。よく考えたら竜巻起こしたり一瞬で家を半壊させた実績があるんだから、ドアを吹き飛ばすぐらい大したことないか。
「今日のホテルは簡単にフロントに入れるだろうし、たぶん大丈夫だろう。こないだのところは、受付の人と顔を合わせないようにするために扉で区切られてたからな」
「前回お泊りになった旅館は不思議な作りなのですね」
説明めんどいなぁ。
「こことは少し違う仕組みの宿泊施設でね。ちょっと説明難しいんだけど」
「なるほど。違いはわかりませんが、そちらもいずれは行ってみたいものです」
「やったね、トール!」
リーフが不思議そうな顔でこちらを見ている。やめてくれ、ゲスな俺に無垢なその目線が痛い。
・・・・・・・・・・・・
「おー、明るーい。あ、窓からの景色がきれー!この前のホテルは窓がなかったもんね。んー、お風呂は普通くらいかなぁ」
「普段の寝具やお風呂が上質なので、わたくしたちは些か贅沢になってしまっていますね」
「そう言われたらそうかもな。二人はこの部屋を使うといいよ。俺は隣の部屋で寝るから」
寝る前にグダグダ雑談していたら、そのままここで寝てしまうかもしれないが。
「トールさん、必要とあらば添い寝や夜伽もいたしますが如何でしょう。せめてものお詫びに」
またとんでもないこと言い出したぞ。
「お前何言ってんの?」
「そうだよ、リーフちゃん。そんなのダメだって!」
珍しくオリサ良識的な反応をする。
「先にOKもらおうとしても、ヘタレのトールが『ヨロシク!』なんて言うはずないでしょ?」
「バカ野郎」
「ああ、なるほど」
「納得してんじゃねぇよ」
「だから有無を言わさずベッドに入っちゃえばいいんだよ」
「なるほど、さすがはオリサさん。大変参考になります」
「お前らバカじゃねぇの?このホテルのドアは閉めたら自動で鍵がかかるので悪しからず。出かけるときに鍵を忘れないようにな」
ありがとう、オートロック。
「悪かったって。冗談だよ。ドアにペットボトルでも挟んで閉まらないようにするから、トールの部屋もそうしてよ」
あまり行き来する理由もないけど、仕方ない。
「まあいいけど。とりあえず部屋は確保できたから駅前行くか」
「おー!あたしあの車運転するゲームやりたい!」
「お前めちゃくちゃ下手だったじゃん」
「今日は壁にぶつからないように頑張る」
「ふふ、行ってみるのが楽しみです。ああ、そうだ、トールさん。わたくし、みなさんと写真を撮ってみたいのですが」
「もちろん、いいよ」
そういえば前回の旅行から帰ったらゲーセンで撮った写真を見せてたな。ルルに拘束された俺が赤目のオリサに杖を向けられてビビってる写真。家中に貼られずには済んだけど、結局リーフの眼には入ったという。
「ゲームセンターの後、駅ビル散策だな。あの中にもレストランいくつかあるし、夕飯はそこで練習がてら何か作って食べようか」
「はい。ぜひ」
「じゃ、早く行こう!」
「ああ」
俺たちは意気揚々と部屋を後にした。