「妖しいリーフと料理の旅」part10
オリサに視線を送ると両腕を広げるジェスチャーをしている。あれは、抱きしめろということか?心の中でさんざんにヤバいやつだ馬鹿だと思った相手だけど、やっぱりリーフは綺麗だしハードル高いぞ。オリサはなおも同じジェスチャーを繰り返す。ああもう、仕方ない。
俺の腕と胸でリーフの頭を包みこむ。こんなの、俺のほうがドキドキしてしまう。
「リーフ、大丈夫だから。元気出せって。誰だって失敗くらいするだろう?ルルだって同じように俺を強く抱きしめて失神させたことあったし、俺はルルの歳を茶化して怒られたし。他にも、俺はオリサの恋愛事情とか下世話なこと聞いて怒られたことあるしさ。リーフだけが失敗したわけじゃないって。な?あの、それになんていうかリーフにはいつも世話になってばっかりだからこんなの全然マイナスにならないよ。いつも面倒見てくれてる分、リーフには感謝の気持ちが山程あるから。それは今も変わらないし。な?リーフ、大丈夫、大丈夫だよ」
うまく話せているだろうか。リーフなら丁寧に話せばちゃんとわかってくれると思うが。
腕の中の頭が静かに頷く。
「ありがとうございます」
これで一安心だろうか。リーフを包む腕を放し、彼女の顔を覗き込む。
涙で潤んだ悲しそうな瞳だ
「トールさん、本当に申し訳ございませんでした」
「肉に興奮するのは知ってるし、これからは新しい発見とかがあっても落ち着いていられるようにがんばろう、な?」
「はい、本当にありがとうございます」
車道のど真ん中に座ったままリーフが頷く。
「それじゃ、リーフちゃん、そろそろ立とうか。ずっとそんなところに座ってるとお尻冷えちゃうよ?あーあー、ほら、お尻のところ汚れちゃってるじゃん。あ、髪の毛も。せっかくきれいな髪なのに、もったいないよ」
「お二人とも、ありがとうございます」
「大丈夫だって」
オリサがリーフのスカートに付いた埃を落としているので、俺が髪の先端を払う。汚れは落ちただろうか。
リーフの髪、たしかにものすごく触り心地良いな。以前ルルがこれに包まれて恍惚の表情をしていた理由がわかった気がする。
「さて、それじゃホテル行こっか。あ、トール、あたしあそこ行きたい。あの、にぎやかな所。えーっと、ゲームセンター!駅の前にあったよね?ホテルからも近いでしょ?」
オリサなりにリーフを気遣っているようだ。リーフが元気を出してくれるといいのだが。
「いいぞ。えーと、それじゃまずホテルに行って部屋を確認しよう。その後ゲーセン行って、駅ビルをリーフに紹介するよ。うちの辺りは山と田んぼと畑しかないからリーフが駅ビル見たら驚くぞ。ま、すでにちょっと見えてるけど」
「近くに行くと驚くよ。あたしとルルちゃんはビックリしたもん」
「そうだったな」
「あの、お気遣いありがとうございます。それは、楽しみですね」
一応、気持ちの切り替えはできているのかな。
「それじゃ乗って。行こうか」
「うん。あ、トール、もう一回あたしの膝枕で元気出しとく?」
こっちはいつものテンションだ。
「もういいっす」
「なんだよー。リーフちゃんのおっぱいに対抗してみたんだけどな」
「は?」
何を言っとるんだ。
「あの、先程わたくしがトールさんを抱きしめた際、トールさんの顔をわたくしの胸に強く押し付けて窒息させてしまったことだと思います。顔に胸を押し付けたので、後頭部にはオリサさんの太ももという意味かと」
ああ、なんか柔らかいものが顔にぎゅうぎゅうに押し当てられたせいで息ができなくなったのは覚えてる。はい?胸?え?さっきのアレって、え?
「トール、顔真っ赤だね。ダイジョブ?」
「ま、まさかまだ酸欠ですか!?も、もうしわけご」
「なんでもない!」
たぶんオリサはわかっていて茶化しているな。まったく。