「妖しいリーフと料理の旅」part7
「この旅行が早速有意義なものになったみたいでよかったよ……」
「はい、本当にありがとうございます。そういえば、わたくしこのようなものも見つけました」
そう言ってページを捲るとカツカレーらしきものを指差して見せた。『大豆ミートのカツカレー』ほう、そんな物があるのか。知らなかった。美味そうじゃん。
「なんなのでしょうか、これは!狂気の沙汰です!大豆ミート!?軟弱な!なんと軟弱な!愚かな!ああ、愚かな!豆を肉に似せて何になるというのですか!ならばお肉を食べるべきでしょう!ああ、ああ、なんと愚かな!わたくしがカレーを作る以上、草食系だとかベジタリアンだとかわけのわからない連中は眉間を射抜いてみせます!!それが、わたくしの望むお料理です!」
リーフがブチギレてる。彼女が怒ってる姿なんて初めて見た。あ、神様にもキレてたか。今回の怒りの矛先は大豆。目の前に大豆の畑があればガソリンをかけて燃やさんばかりの興奮状態だ。
お前、二千年弱ベジタリアンで、肉を食べるようになったのはここ一、二か月だよな?
オリサが俺の気持ちを汲んでくれたのか、おかわりを注いでくれた。一気に胃へと流し込む。
「リーフちゃん、厨房見てきたら?」
「ありがとうございます。重ね重ねご迷惑をおかけしました」
目に見えてウキウキした様子でリーフが厨房へと去っていった。
クッソ迷惑だったわ。
超地獄耳のリーフがいる空間では、小声でも言うわけにはいかない。
この旅が終わる頃には俺たちの頭は白髪だらけになっているのではないだろうか。オリサと目を合わせ、二人同時に深い溜め息を吐いた。
・・・・・・・・・・・・
「実に幸先良い発見でしたね。大変良い旅行になりそうです。ルルさんには感謝しなければなりません」
「そーだな」
リーフの価値観は理解できん。
カレー屋を出て近くのホテルに移動しようと車に乗り込んだ。俺とリーフは先に乗り込み、トイレに行ったオリサを待っている。
午前は農作業、その後昼食を取ってから家を出たのでもう少ししたら日も暮れてくるだろう。本格的に料理の練習をするのは明日に回すとして、今日は宿を決めてリーフのために近くの散策をすることにした。
さしあたって、駅に隣接したホテルが丁度いいだろう。泊まったことはないが、駅前の広場から見える位置に綺麗なレストランがあるので厨房もしっかりしたものがあるはず。俺としても毎日使っていた駅とその近辺なのでリーフを案内しやすい。
そのため今回泊まるホテルはラブではない。ちょっと残念。
「トールさんはビーフカレーとポークカレーならどちらがお好きですか?」
「あんまり考えたことなかったな。どっちも好きだけどね。チキンカレーも美味いし。カレーはみんな美味いよね」
いつの間にかカレー探求の旅になっているような気がする。
「具材を複数載せるというすばらしいアイディアを得たものの、欲望というものは無限に広がるものです。ビーフカレーとポークカレー、それにチキンカレー、これらを一度に食べたいと思ってしまいました。カレーライスを三皿はさすがに食べすぎになってしまいますね」
出会ったその日にコンビニ弁当二個を容易に食べていた健啖家っぷりを思えば、リーフにとってのそれは大した事ないのではなかろうか。
「ふふ、自分の欲深さに驚いてしまいました」
食に関しては欲望の塊みたいな性格してるくせに何を言うか。