「妖しいリーフと料理の旅」part4
「さて、まずはどこに行こうかな」
とりあえず車を走らせ、毎度おなじみ県庁所在地へと向かっている。
「トールさんはカレーがお好きなようですから、カレーを扱うお店へ行ってみてはいかがでしょう?カレーを軸にレパートリーを増やすのがトールさんにとって最も料理に馴染みやすい方法かと」
「トールの場合、得意だからじゃなくて簡単に作れるからカレーをよく作ってるんだよね……?」
そうなのよね。ルーがなければカレーは作らなかったはず。
「まあオリサの言うことも一理あるな」
実は一理どころか百理も千理もあるけど。
「なるほど、ですがせっかくですし家庭で作るもの以外にお店ではどのようなカレーが出されていたのか見てみたくもあるのです」
「なるほどねぇ。同じカレーでも、リーフ先生ならトールのポンコツレパートリーを増やしてくれるかもしれないわけだね」
「うるせえ。ま、そんなら高校の帰りとかに友達と寄ってた店があるからそこに行こうか。カレーそのものより付け合せが豊富な店だけど」
そんなこんなで俺たちは一路、俺の行きつけのカレー屋へと向かうことにした。チェーン店だけど。
・・・・・・・・・・・・
「トールさん、お疲れさまでした」
「おつかれさまー」
「おう」
もはや慣れた手付きで店の鍵を開け二人を招き入れる。
「ここがそのお店。さっそく厨房を見てみようか。これがメニューだな、はい」
歩きながら近くのテーブルからメニューを取ってリーフに渡す。
「ありがとうございます。少し拝見してから厨房を見せていただきましょうか」
「あたしはトールと奥の方見に行くね」
メニューに目を通し始めたリーフを残し、俺とオリサは厨房へと入っていく。
「作ってるのは何度も見てたけど、基本的にトッピングの料理って冷凍のものを揚げて出すのが多い印象だな。あとはカレーと一緒に煮込んで解凍したり。カレーそのものは工場で作ったものを持ってきてるんだったかな」
「へー、トールはいつも何頼んでたの?」
「ほうれん草と魚のフライのカレーとか、エビのカレーとか」
「もっとお肉食べてるのかと思った」
「お肉高いのよ……」
実際はせいぜい二、三百円の差だったと思うが高校生には死活問題なのだ。
そういえば、今後の人生は自由にカツカレー食べ放題だな。とにかく肉を消費しないと溜まっていって冷凍庫を圧迫するのが理由だけど。
「ここに油を入れて作るわけだ。あ、ちょうどオリサの目の前にあるのが冷凍庫だな。ちょっと見てみようか」
「いよいしょっと。うわ!ぎっしり詰まってるね」
「やっぱチェーン店は冷凍を温めたり揚げたりが多いみたいだなぁ。ここではあんまり料理の技術向上は望めないか」
「でも、メニューだけでも持って帰れば作る料理のイメージが湧くんじゃない?」
「お前、いいこと言うな」
「ドヤァ!」
「口で言うやつ初めて見た」
「そういえばリーフちゃん遅いね」
「たしかにな」
ふと気になり客席を見てみればリーフは先程の場所から一歩も動いていなかった。オリサも不思議に思ったらしく顔を見合わせてしまう。首をかしげるオリサを伴い、俺達は来た道を引き返した。
「リーフ、何か気になるもの……リーフ?」
「え?リーフちゃん、どうしたの!?」
リーフは口元に手を当て目を見開き、メニューを持つ手を小刻みに震わせていた。額には薄っすらと汗が滲んでいる。こんな姿を見るのは初めてだ。
「リーフ!どうした!」
思わず声を荒げてしまう。
リーフはそれを待っていたかのようにその場に崩れ落ちた。まるで糸の切れたパペットのように。