「妖しいリーフと料理の旅」part2
「ルル、どうした?何か悩みごとか?」
「とりあえず、こちらにお掛けになってはいかがですか?」
「ウイスキー持って来ようか?」
「いや、酒はいい。むぅ、ちょっとお前たちに頼みたいことがあってな……」
どうしたのだろう?遠出の運転なら俺だろうけど、全員に頼み事というのは今までにない。
「他でもないルルちゃんのお願いならなんでも言うこと聞くよ!思いっきり泣きたいならあたしの胸を貸してあげる!ほら、おいで!」
そう言ってオリサが両手を広げルルを招く。
……あそこ本当にすげぇ居心地いいんだよな。少し前、オリサの腕の中で声を上げて泣いた夜を思い出す。オリサは女神なのではと思うほどに居心地がよかった。胸に顔を埋めて泣いたということでしばらくオリサにからかわれたけど、泣いていたせいで感触は全く覚えていない。からかわれ損だ。
「ああ、すまん。よく考えたらオリサだけは無関係だった 」
「んな!」
オリサががっくりと肩を落とす。
「わたくしとトールさんにお話……ですか?」
「珍しい組み合わせだな」
俺たちに何か共通点とかあったかな?
「どーせあたしは蚊帳の外ですよーだ」
オリサが体育座りで唇を尖らせいじけている。
「すまん、料理に関する話でな」
「リーフちゃん、トール!ほら、ルルちゃんがお話あるって!」
「お前は……」
流石に呆れる変わり身の速さだった。
「お料理のご要望ですか?」
「ああ、実は……わたしはもう我慢できん!」
「は、はぁ」
真剣な目でリーフを見つめる。
「わたしは大して料理ができないので文句を言うべきではないと思っているが、要望くらいはいいだろう。作ってほしいものがある。わたしは、わたしはもっと辛い物が食べたいのだ!」
「は、はい」
リーフが目を瞬かせ返事に困っている。ルルの勢いに圧倒されているらしい。
「辛いと言ってもトールの作るカレーにスパイスを追加で入れるものではない。先日の夕飯にインスタントラーメンを食べただろう?わたしが食べたグリーンカレーのラーメンがあまりに美味くて我慢できなくなってしまった。辛味と香辛料をふんだんに使ったクセの強い刺激的な料理を食べたいのだ!調べたところ、中華料理の中でも四川料理なるものは非常に辛味が強いらしい。『麻辣』というのだろう?それから東南アジア地域の料理も熱帯の気候に合わせた辛いものが多いと聞く。例えばトムヤムクンなるスープ、これはエビ煮込みらしいので鶏煮込みのトムヤムガイならば我が家でも大量生産が可能なはず。例のグリーンカレーもトムヤムクンと同じ国の食べ物らしい。そのようなわけでだ、リーフ!お前に作り方を身に付けてほしいのだ!」
「しょ、承知しました!」
「そしてトール!」
「は、はい」
先程のリーフと同じ反応をしてしまった。移動の足になれということかな?
「野菜料理を身に付けてくれ!」
「や、やさい?」
想定外のリクエストだった。
「ああ。わたしも肉は好きなのだが、ここ最近、あまりに野菜を食べていないので身体が野菜を欲しているのだ。果物で補おうにもそうはいかん。季節的にも日本の風土的にも果物が少ないのは仕方がない。だが、ここまで獅子のごとく肉ばかり食べるとどうにも身体がおかしくなりそうだ。だから、リーフは肉料理を得意としているのでお前には野菜料理を覚えてほしい。どうだろうか?」
「お、おう。わかった」
「いよぉしっ!」
胸の前で拳を握りしめ、力強くガッツポーズをしている。相当悩んでいたんだな。




