「妖しいリーフと料理の旅」part1
六章完結から四か月、たいへんお待たせいたしました。本編再開です!
主役は人気キャラのリーフちゃん。楽しんでいただけたら幸いです。
今日もリーフの食事は美味かった。
夕飯が終わりオリサとルルに片付けを任せ、ソファーでゆったりお茶を飲みながらそんなことを考えていた。神様のおかげでネットと動画サイトは生きているので、テレビで動画を見てから風呂に入るのが夕飯後の俺達のルーティーンだ。
「何を見るかお決まりでないようでしたら、選んでもよろしいですか?」
テキトーにホーム画面に並んだサムネイルを眺めていたら隣に座るリーフに確認された。
「ああ、いいよ。特に気になるのがなかったもんで。コントローラー独占しちゃってごめんね」
「いえ、お気になさらず」
そう言ってリーフは料理動画の一覧を呼び出した。ルルだけでなくリーフもオリサも身近な機械の扱いは慣れてきたものだ。
「勉強熱心だね」
「ええ、たくさん勉強して、みなさんにもっといろいろな美味しいものを提供しますね」
「たのしみー!」
洗い物を終えたオリサもソファーに腰掛ける。
「このような動画だけでなく、トールさんと一緒に映画を見ることでも在りし日のこの世界のお料理を知ることができて大変楽しいです」
「あ、だからリーフちゃんは映画を見るときにノートとペン持ってるんだね」
「想像以上に勉強熱心だな。何か最近気になる料理はあった?」
「ふふ、ありがとうございます。先日見た映画に名前だけ出てきた『ハギス』が気になりますね」
そんなん出てきたっけ?
「どの映画に出てきただろう?」
「この世界に巨大な石が落ちてくるため、空高く飛び立った人たちが石に穴を掘って破壊する映画です。その中で肥満体の男性が『俺の大好物はハギスだ!羊の胃袋に心臓や肝臓を入れたものさ』とおっしゃっていました」
あの映画か。オリサとルルが号泣してた。ただし、ルルはひとしきり泣いた後に『あの描写は科学的におかしいのでは。無重力感もなかったし』とか言ってたけど。
映画はわかったのだが、そのシーンは思い出せない。そして、もつ煮込みとかホルモンくらいならイケるけど、いま聞いたのはだいぶキツそうだな……。
「リーフちゃん、ごめん、あたしはそれちょっと苦手かも……」
「同じく」
「あら、そうですか。クセが強そうですし、仕方がありませんね。もしみなさんがお出かけの際には留守番をして一人で食べてみるのもいいかもしれません」
こういうとき、リーフはワガママ言ったりしないから本当に助かる。
「映画の中であの男性は笑顔で『おっ立つぜ!』とお話ししていたのです。恐らく、食べた瞬間にあまりの美味しさに立ち上がってしまうと言いたかったのではないか、わたくしはそのように考えました」
リーフが虚空を見上げて目を輝かせているのを見ていたら、オリサが俺の太ももを突付いてきた。彼女の方を見れば顎でリーフを指す。『間違ってるから教えてやれ』という意味だろう。俺は静かに首を横に振った。恐らくだけど、その『立つ』感覚って俺にしかわからないヤツじゃないかなぁ。説明したくないので何も言わないけど。
「もつ料理ならわたしは問題ない。機会があれば作ってもらおうか」
今まで座らずに話を聞いているだけだったルルが会話に参加した。
そういえば、前に羊の丸焼きを作ったときにリーフと二人で脳を美味そうに食べてたっけ。羊や豚の丸焼きはルルの地元で祭りのときに作るらしいが、脳は一番人気で取り合いになるのだとか。『たった二人で分け合えるなんて人生初の贅沢だ』と嬉しそうに食っていた。脳を。俺とオリサは遠慮した。脳は……うーん、ノーだな。いや、なんでもない。
「それは大変助かります。ふふ、楽しみですね」
ルルは俺達の座るソファーの後ろで腕を組んだまま動かない。うっすらと眉間に皺を寄せている。