短編5『マナー・クライシス』part4
「三人ともお疲れ様。全く戦力にならず、申し訳ない」
「気にすることないだろう」
「ね。動物育てたことないなら普通だよね」
「慣れていないと体だけでなく精神的にも負担が大きいですからね。お夕飯、急いで作りますからお待ちください」
「ならばリーフ、これはどうだ?お湯を用意すればすぐ食べられるのだ。一人旅で世話になった」
ルルはキッチン奥の食料倉庫からインスタントラーメンを取り出してきた。そういえば楽をしたいときのためにスーパーから回収していろんな種類を並べて置いたんだ。今こそその時に違いない。
なんだかんだで昼食は出してしまったし、体調も戻っているからかなり腹が減ってしまった。これはもう、すぐ作れるラーメン以外考えられないだろう。
「リーフも疲れただろ?これに頼ろうか。中の麺を器に入れてお湯を注ぐだけで準備完了だから」
「承知しました。お気遣いありがとうございます。ではお湯を用意しますね」
「いろいろあるけど、リーフちゃんどれにする?」
「悩みますね」
「わたしはこのグリーンカレーヌードルなるものにする」
輸入品の変わり種だな。
「トールさんはどれがお好きですか?」
「この普通のラーメンかな。あとはシーフードも好きだけど。あ、この豚骨ラーメンなんかリーフ好きそう。豚の骨で取った出汁のラーメンだよ」
「素敵な響きですね。では、わたくしはそのトンコツラーメンをいただきましょう」
「俺は普通のにするかな」
「んじゃあたしはシーフード!これならみんなで色んな味をシェアできるでしょ?」
みんなでわいわい選ぶのも楽しいもんだ。だいぶ腹減ったので早く食べたいけど。
「なるほど、スープ分け合うのか。そうだ、俺は卵を乗せよう」
「トール、追加でお野菜入れたいんだけど何がいいかな?」
「んー、もやしがいいんじゃないかな。生のまま乗せてもいいし軽く茹でたり炒めてもいいし」
「わたくしは塩漬け肉を切って乗せましょう」
「お前たち、なんだかんだでしっかり料理しようとしているな。腹が減ったから早く食べないか?」
「ごめん、もーちょっと待って!もやしは生で乗せちゃうから」
「お前も卵乗せるか?」
「まずはそのまま食べようと思う。リーフ、お湯はまだか?」
「ちょうど沸きました。お肉はまたの機会にして、わたくしも卵だけいただきましょう」
「すまないな、もう空腹で限界だ」
乾麺の入ったどんぶりを手にルルがトコトコとコンロに近づいてくる。
俺は冷蔵庫から卵を出す。ちょうど在庫は二個。今日取れた分はキッチリ使い切ることになる。
「ところでオリサさん、ルルさん」
「ん?」
「なに?」
「ラー……トールさ…………か否か……できる……」
顔の高さをルルに合わせたリーフがなんか小声で話してる。俺の名前が出てきたぞ。
「俺がどうした?」
「いえ、お気になさらず!」
リーフが慌てた様子で顔を上げる。
「気にするな」
「なんでもないから!ホントにホント!」
オリサ慌てすぎ。ルルが呆れた様子でオリサの尻を叩いている。
よくわからんが、腹も減ったしさっさと食べるか。俺とリーフのどんぶりに卵を割り入れる。
「まぁいいや、お湯入れて早く食おう」
「はい、お湯跳ねにお気をつけください」
そう言ってリーフがやかんを手に取る。ルルのどんぶり、俺の、オリサのとお湯を注ぐがお湯の勢いが弱まってしまった。
「やはり四人分は無理がありましたね。どうぞお先に召し上がってください」
「さりげなく俺たちを優先してくれてありがとう。それじゃ遠慮なく」
「助かる」
「リーフちゃんありがとう!」
「次回はやかんと一緒にポットでもお湯を沸かしましょう」
俺たちはどんぶりを手に持ち食卓の定位置に着いた。リーフには悪いけど、これで待ったらリーフを困らせるのも理解している。先にいただいていよう。
「それじゃリーフ、お先にもらうよ」
「はい、どうぞ」
「いただきます」
「いただきまーす!」
「いただきます。いい香りだ。スパイスが効いている」
正面に座るルルのどんぶりから普段は嗅がないエスニックな香りが漂ってくる。美味そうだな。