短編5『マナー・クライシス』part2
「ルルさん、ちょっとお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「その便利な板でこの世界のマナーを調べていただけませんか」
「トールがさっき言ってたようなやつ?」
「はい、トールさんに聞いてもいいのですが、自分たちで調べて先に気をつけておくべきかと思いまして」
「『日本』『マナー』と……、ふむ、『箸で人を指すのは行気が悪い』これに気をつけるのはリーフだけだな」
「スプーンなら大丈夫ってわけでもないんじゃない?」
「そうですね」
「む、気をつけねば」
「ルルちゃん、やっちゃうの?」
「ドワーフだけで宴に興じると、な」
「ドワーフ族は仲間との食事が大好きですから。あまり細かなマナーなどは考えずに楽しむことが多いですね」
「へー」
「ほう、食事中に歌うのも駄目なのか」
「ルルちゃんけっこう当てはまってるの?」
「まぁ……」
「ルルさんはいささか窮屈に感じるかもしれませんね」
「気をつけよう」
「床に落ちた物でも、三秒以内ならば問題ないらしいぞ」
「そうなの!?」
「それは初めて知りました」
「でもそれってマナーなのかな?」
「わからん。『背筋を伸ばして食べる』たしかにトールは姿勢がいいな」
「そうですね」
「そうなんだ」
「お前はトールの隣に座っているからな。真横を向かないと見えないだろう。それから『茶碗は左手に持って食べる』」
「あたし左利きだから左手に持つと食べられないよ」
「そこは右手に持って食べるということで問題ないと思いますよ」
「お、これは……、そういうことか」
「あぁ、なるほど。そうだったのですね」
「どしたの?」
「お前とわたしが度々注意されているやつだ」
「『一膳めし』。故人の枕元に備えるもので、お茶碗に盛ったご飯にお箸を立てるそうです」
「あ……何度もダメって言われたね」
「理由が理由だけに、トールさんも言いづらかったのかもしれませんね」
「トール見た時嫌だっただろうなぁ。気をつけないと」
「そんなにしょげるな。わたしだって何度も指摘されているのにやってしまうんだ。二人で気をつけよう」
「うん」
「調べるといろいろ出るもんだ。ん?これは本当だろうか……?」
「どしたの?」
「これを見ろ」
「ほう……眉唾ですね」
「リーフちゃん、顔にそんなの塗っちゃ駄目だよ……」
「本当かどうかわからんという意味の言葉だろう!」
「お二人の故郷ではいかがでしたか?」
「眉毛にヨダレ付けるの?」
「そっちじゃなくて、ここに書いてある話だろうが。わたしの故郷にはなかったな」
「あたしも、うーん、お行儀悪いと思う。リーフちゃんは?」
「わたくしも同様です。ですが、トールさんがこの通りにお食事していたら嫌な顔をしないよう気をつけましょう」
「うん、そうだね」
「ああ、トールに合わせるべきだろう」