短編5『マナー・クライシス』part1
「これはなんという料理だ?」
「ハンバーガー。アメリカの料理で、ルルが見た映画にも何回か出てたと思うぞ」
「ほう、サンドイッチに似ているな」
「まあサンドイッチの親戚みたいなもんかな。作りは似てるし」
「早く食べようよ!」
「「「いただきます!」」」
「はい、召し上がれ」
いつものようにリーフの作った昼食に舌鼓を打つ俺たち。
俺も手伝ってはいるけど、野菜を切ったり使い終わったフライパンや鍋を洗ったりがメインで味付けは専らリーフの仕事だ。そのおかげと言うと俺の立つ瀬がないが、今日の料理も美味い!
リーフ手作りのバンズにリーフ手作りのビーフ100%パティ、リーフ以外の面々はレタスとトマトの挟まったシンプルなバーガーだ。ちなみに俺はビーフパティ二枚、リーフは四枚。顎外れないのかな。淑やかなリーフが大きく口を開けてかぶり付く様はちょっと珍しいものを見られて得をした気分になるが、いかん、他人が食べている様子を見るなんて下品すぎる。
「んん、おいひー!イーフひゃん、おいひーお!」
「口に入れたまましゃべるな。行儀悪いぞ」
「ふふふ」
「ルル、オリ……」
話しかけようとして止めてしまう。声を出した以上、なかったことにはできないよな。
「ん?わたしか?どうした?」
「何?」
「あ、いや、ごめん。なんでもない」
と言っても気にするか。
「む?」
「どーしたの?」
「いや、あの、ちょっと気になった事があったんだけど気にしないでくれ」
「気になる言い方」
「そうだな。だが、言いたくないならそれでもいい」
「もしや、肘を付くのがよろしくないということでしょうか」
驚いた。リーフの観察眼には毎度舌を巻く。
「そのとおり。よくわかったね」
「トールさんの視線がルルさんとオリサさんの腕に向かっていたのが見えました。それとお二人が食卓に肘をついていたもので」
「リーフすごいな。あ、でも二人とも気にしないでくれ」
「そうは言っても、お前にとって食事の際にテーブルに肘を付くのはマナー違反なのだろう?ならばこれから気をつけるさ」
「いや、それはありがたいんだけどさ。んー、なんて言うかなぁ」
「どしたの?」
「俺が親から注意されたことを三人にも言うのって、なんか押し付けてるかもしれないなと思って。三人とも、マナーとかはぜんぜん違う世界から来てるわけだしさ」
あくまで俺の世界のマナーなわけだし。いや俺の世界じゃなくて日本のマナーか。とにかく、それを異世界から来た三人に押し付けるのは俺としても嫌なので、うっかり声を出してしまったものの別に三人にそれを求める気はない。
「そんなこと気にするな。お前の家に住んでいるのだから、お前の基準に従うのは当然だろう」
「んー、なんか気を遣わせて悪いな。まあとりあえず肘は頼んだ」
「わかった」
「あたしも気をつける」




