短編4『夜の語らい』part4
「そういえばさ、リーフの名前ってどんな意味なの?」
「リーフですか?『木の葉』です」
だよな。
「英語……だよね?」
「ええ、トールさんもご存知、英語です。スペルは"l" "e" "a" "f"で"Leaf"」
「そんぐらいわかるよ」
「そういえば、わたくしがもう一人いれば名前は『リーヴズ』になってしまうのでしょうか?うふふ」
「あのね……、俺が言いたいのは異世界から来たエルフの名前がこの世界の言語であることに疑問しかないってことなんだけど」
なんとなく似合ってる名前だからしばらく何とも思わなかったけど、冷静に考えたらおかしいよな。エルフ語で『リーフ』って言葉があるのかとおもったけど、そんな偶然もあると思えないし。
「それは簡単です。友人がわたくしを見た印象で付けた愛称がリーフだったからです。新たな世界ではそれを名乗らせて頂いております」
「友人ってだれ?」
もちろん俺じゃない。彼女がこの世界に来た段階でリーフはリーフだった。俺以外にだれもいなかったのに。でも英語で名付けたならこの世界の人のはず。いかん、頭がこんがらがってきた。
「そろそろ種明かしをしましょうか。昔、雷とともに突然わたくしの前に現れた方がいました。その方は聞き慣れない言語を話す人間族だったのです。行く宛も無いようでしたのでわたくしが彼を保護いたしました。紆余曲折の末、その方と交流を重ねるうちに十分に意思の疎通が図れるようになり頂戴したのが、彼の世界で木の葉を指す単語『リーフ』だったのです」
「え、『彼の世界』!?」
「ええ、当時は何を言っているのかわかりませんでした。ですが、ここへ来てはっきりと理解いたしました。彼はこの世界からの来訪者であったと。偶然にも、わたくしの世界へと迷い込んでしまった方なのです。その友人の故郷たる世界にいまはわたくしが立っている。本当に、人生というのは何が起こるかわかりませんね。何年生きても日々楽しいです」
なんだかサラサラっとすごい話が出てきたぞ。
「え、あの、なんだ?なんかすごいな。俺の世界の人がリーフの世界に転移しちゃって、その人と友達になった。それで、その人から『リーフ』ってあだ名を付けられた。俺の世界に来たらその名前を名乗ることにしたと。なんか壮大……」
「ふふ、本当ですね」
「神様関係なしに偶然で移動するってこともあるんだ。じゃあ、この世界に偶然で異世界人が来たり、人間が帰ってきたりも……?」
「可能性はあるかもしれませんが、千年以上生きたわたくしが一度しか経験しておりませんので遭遇する望みは薄いかと」
「まあそうだよね。あー、それで国では別の名前だったんだよね?」
「ええ、もちろん。ちなみにエルフ語で『木の葉』は『ラス』と言います。『緑の葉』であれば『レゴラス』です」
「ほう。どうして『リーフ』って名乗ろうと思ったの?」
「心機一転です。新しいわたくしに生まれ変わりたかった、それだけです」
ルルも違う世界で自分の力を試したかったとか言ってたな。みんなそれぞれ希望を持って来てくれたのか。
「なるほどねぇ。いやー、衝撃の真実だった」
「そのうちお話しようと思ってすっかり忘れていました。気をつけているのですが、長生きのエルフはつい色々と先送りにしがちなのです。自覚はないのですが、よく多種族に注意されてしまいます」
「今の所それは気づいてなかったよ。なるほど、俺も『リーフ』って名前似合ってると思うよ」
「ありがとうございます」
「ちなみに、本名は何ていうの?」
「そうですね……」
あれ、言いたくないかな?目を細めて空を見つめてしまった。
「よぞら、つき、ほしぞら……、ふむ。わたくしの名前は『星空千代美』です」
「は?」
「いえ、もしかしたら『三千代』かもしれませんが」
あー、今日見た映画のネタか。いいセンスだ。
「『桑畑三十郎、いやそろそろ四十郎だが』ってことか」
「うふふ、わかっていただけて幸いです」
嬉しそうな笑顔だ。リーフは大人っぽいのに笑顔は無垢な子供のようで可愛らしいな。
元ネタ集
・「桑畑三十郎、いやそろそろ四十郎だが」
名作、『用心棒』(演・三船敏郎、監督・黒澤明)の主人公の名前より。目の前の桑畑を見てとっさに答えた名前です。たぶん彼の年齢は三十代後半なのでしょう。




