短編4『夜の語らい』part3
「生活といえばさ、リーフっていつも早起きだよね。こうやって夜更しもしてるのにいつも俺が起きると台所にいるし。パンを焼くために早起きしてるの?」
「いえ、もともと睡眠時間が短めなので。これはエルフの特徴というよりわたくし個人の話です。三時間も寝れば十分ですね」
「マジか。自然に起きちゃうの?」
「はい、マジなのです」
「なら夜はヒマだね」
「そうでもないですよ。読書をするも良し、近くをお散歩するも良し。それに、星空はいくら眺めても見飽きません。それから幸せそうに眠るルルさんとオリサさんの頭を撫でたり、ふふ、頬に口づけしたり。あ、これは二人にはナイショですよ」
リーフは人差し指を口元に寄せウィンクしてみせた。か、かわいい!
「楽しそうだね。だから俺が起きたときにはいつもパンが焼き上がってるのか」
「ええ、お米もいいのですが、わたくし達はどちらかと言うとパンのほうが慣れているもので朝はパンを焼かせていただいております。もしお米が食べたいときはおっしゃってくださいね」
「俺も朝はパン派だから大丈夫」
「それは良かったです」
それだけ言うとリーフは脚を組み直す。そういえばずっと素足を出したままじゃ寒そうだな。
「ちょっと待ってて」
「はい?」
俺は自分の部屋の窓を開け中に入るとクローゼットからフリースを二枚取り出し急ぎ足でベンチへと戻った。
「はい、脚を出したままだと寒いでしょ?腕もほとんど出てるし」
そう言って肩と脚にフリースを掛ける。
「ああ、ありがとうございます。ふふ、暖かいです。たしか、このような生地は『フワフワしている』と表現するのですよね」
「そうそう。タバコを吸ってすぐ戻るつもりだったのかもしれないけど、その格好じゃ風邪引くよ?」
「お気遣いありがとうございます。ですがご心配には及びません。エルフは病気知らずですから」
「え?」
「暑さや寒さに強く、病気になることもありません」
「あれ?じゃあこの上着いらなかった?」
「トールさんの優しさに心が大変暖かくなりました。ふふふ、ありがとうございます」
「それならよかった。それにしても、エルフって頑丈なんだね」
「ドワーフも似たようなもので熱にも冷気にも強いですよ。病気は罹るようですが」
たしかにサウナでのルルは余裕綽々だったな。風呂もほっとくと一時間とか入ってるし。
「オリサは暑いの苦手で寒さにはかなり強いね」
「そうですね。寒い地域のお生まれなのかも」
言われてみれば、アイツ、自分語り全然しないな。
「今度アイツの地元の話を聞いてみようかな」
「んー、それはお止めになったほうがよろしいかと。ご本人が今までお話になっていないのなら話したくないのかもしれませんから。魔法使い族全体のお話なら問題ないと思いますが、オリサさん個人の身の上は好ましくないと思うのです」
「あ、そっか。危なかった」
すっかり忘れていたけど、オリサは地元にいたときのことを『ぜんぜん楽しくなかった』とだけ言っていた。それなのに聞くなんてダメだよな。
「ありがとう。完全に油断してたよ」
「いえ。でも、きっとすぐに教えてもらえますよ。トールさんとオリサさんは仲良しさんですから。ふふ」
俺たちはそういう関係じゃないっての。
「あー、エルフは病気知らずってことはいくら飲んでも肝臓が壊れることはないしタバコを吸っても癌になったりしないんだ」
無理やり話題を変える。
「ええ、多少酔うことはあれども内蔵が傷むことはありませんね。ですが、人間族であるトールさんはどちらもお気をつけくださいね」
「ああ、タバコは吸う気ないし、酒も飲むことになってもほどほどを心がける」
「大人というのは存外その誓いが守れないものなのですよ。しかし、一緒に盃を交わすのは楽しみです」
「ルルも同じこと言ってたな。酒を飲む人の考えは俺にはまだわかんないや」
「うふふ」
リーフとゆっくりおしゃべりするのも良いもんだな。
「トールさんとこうしてゆったりとお話できて、とても楽しいです」
「奇遇だね。俺も同じことを思ってたよ」
「あらあら、お上手ですこと」
口説こうとしてると思われちゃったな。