表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/213

短編3「リーフwith刃物」part6

「髪型には何かこだわりがあるのですか?」

「なーんにもないよ。邪魔にならなくて突飛じゃなければなんでもいいかなぁ」

「なるほど。邪魔にならないのは大切ですね」

「リーフはそんなに長くて髪を洗うの大変じゃないの?190センチの体で腰までの長さじゃ大変でしょ?俺ならすぐ面倒になって投げ出すよ」

「ふふ、毎日のことで慣れましたから。かつては侍従(じじゅう)たちが、ああ、いえ、気にしないでください」

「じじゅー?」

「前髪はこのくらいでよろしいですか?」

「あ、うん」

「髪ですが、座る際にうっかりお尻の下に入ってしまうとさすがに痛いですね」

「ショートにはしないの?リーフはたいていの髪型が似合うんじゃないかな?」

「ありがとうございます。そうですね、昔、戦場(いくさば)に立っていた頃はオリサさんくらい、いえ、もう少し短かったのですが、戦わなくなってからは伸ばし続けております」

「つまり、リーフにとっての長い髪は平和の象徴?」

「そういうことです」

「なら、ショートのリーフには会えないほうがいいか」

「ふふ、そうですね。ちなみにわたくしの身長は190センチではなく188センチです」

「俺から見たら大差ないんだけど……」



「そういえばさ、ルルのひいじいちゃんがリーフの髪の毛欲しがったらしいじゃん?」

「ええ、ルルさんがあの子の曾孫(ひまご)とは驚きました。ほんの二百年か三百年で世代はずいぶん回りますね」

「三百年が『ほんの』とか、江戸幕府涙目だな。ルルが六十一でそのひい爺ちゃんを『あの子』って……。あー、それでさ、エルフの髪って貴重品なの?」

「ふむ、そうですね。わたくしから見たら頭にたくさん生えているものですが、丈夫なのと……、ふふ、手前味噌で恐縮ですが美しいからと求められることが多いですね。ルルさんも夢中でしたし」

「なるほどねぇ」

「せっかくですから、トールさんにも差し上げますよ。髪だけ受け取っても困るでしょうから、弓にしてお贈りしましょう」

「弓?」

「ええ、わたくしの髪は丈夫なので束ねて弓の弦にもできるのです。わたくしが使っている弓も自前の髪で作ったのですよ」

「な、なんかすごいね。ただ毎日一緒にいるのにわざわざ髪を貰うのも悪いな」

「ふふふ。これは友好の印ですから」

「うーん、なら期待しておこうかな。弓とか今まで触ったこともなかったけど、せっかくだし教えてもらおうか」

「ええ、ぜひ。さて、これでいかがでしょうか?後ろはこのように」

「うん、完璧。リーフに頼んで良かったよ。頭が軽くなった!ありがとう!」

「ふふ、喜んでいただけて光栄です」

「さて、オリサお待たせ。帰ろうか」

「ご、ごめん!ちょっと待って!トーゴーさんが敵に捕まっちゃって大変だから!」

「静かだと思ったら、ずっと漫画読んでたんかい」

「ここには定期的に訪れるでしょうから、お掃除しながら待ちましょうか」

「そうだね」



「うひゃっ!な、何だいまの!?」

「うふふ。わたくしの髪です。束ねた髪の先で首筋をくすぐりました」

「案外茶目っ気あるね」

「ふふ、失礼しました」

「いいけどね」

「みなさんと過ごしていると気分が若返ります」

「たしかに柔らかくて触り心地の良い髪だったなぁ」

「ありがとうございます」



「あ、ちなみにさ、流石のリーフでも短剣で髪を切ったりはしないよね?」

「ええ、もちろんです。ハサミがあるのに短剣を使うはずがありません」

「だ、だよね。リーフ、あの、リーフ?なんで俺の顔をペタペタ触ってるの?」

「ふふ、せっかくこのような空間にいるのですから、この剃り忘れの鬚髯(しゅぜん)も処理して差し上げようかと」

「しゅ、しゅぜん……?」

「どうぞ、今一度おかけください。当然、自分でしたことはありませんが、こちらの短剣で綺麗に剃って差し上げます」

「ごめん、あの、そういう意味で短剣の話を出したわけじゃないんだ!え、遠慮しとくよ!髭もちゃんと毎日剃るから、短剣を持って近づかないでくれ!リーフ、なぁ!無精髭が気になったなら自分で剃るし、リーフ!」

「ふふふ、遠慮なさらず。うふふふ」

「ひゃぁぁぁぁぁ!!」


 ・・・・・・・・・・・・


「おまたせー!トール、サッパリしたね。いいね、いいね。あ、じょりじょりの髭も剃ったんだ。いい感じじゃん!」

「どーも……」

「どしたの?」

「お前、相当集中して読んでたんだな」

「うん!面白かったよ!トーゴーさん全然喋らないけどかっこいいよね!最後のページで『ズギューン!』って撃って何も言わないで去って行くところとかさ!」

「そう……、良かったよ……」

 お茶の準備のため一足先に帰ったリーフを追って、俺たちは床屋を後にした。

 これから髭を剃り忘れたりしないよう気をつけよう。

 心にそう誓った。



短編3「リーフwith刃物」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ