短編3「リーフwith刃物」part6
「髪型には何かこだわりがあるのですか?」
「なーんにもないよ。邪魔にならなくて突飛じゃなければなんでもいいかなぁ」
「なるほど。邪魔にならないのは大切ですね」
「リーフはそんなに長くて髪を洗うの大変じゃないの?190センチの体で腰までの長さじゃ大変でしょ?俺ならすぐ面倒になって投げ出すよ」
「ふふ、毎日のことで慣れましたから。かつては侍従たちが、ああ、いえ、気にしないでください」
「じじゅー?」
「前髪はこのくらいでよろしいですか?」
「あ、うん」
「髪ですが、座る際にうっかりお尻の下に入ってしまうとさすがに痛いですね」
「ショートにはしないの?リーフはたいていの髪型が似合うんじゃないかな?」
「ありがとうございます。そうですね、昔、戦場に立っていた頃はオリサさんくらい、いえ、もう少し短かったのですが、戦わなくなってからは伸ばし続けております」
「つまり、リーフにとっての長い髪は平和の象徴?」
「そういうことです」
「なら、ショートのリーフには会えないほうがいいか」
「ふふ、そうですね。ちなみにわたくしの身長は190センチではなく188センチです」
「俺から見たら大差ないんだけど……」
「そういえばさ、ルルのひいじいちゃんがリーフの髪の毛欲しがったらしいじゃん?」
「ええ、ルルさんがあの子の曾孫とは驚きました。ほんの二百年か三百年で世代はずいぶん回りますね」
「三百年が『ほんの』とか、江戸幕府涙目だな。ルルが六十一でそのひい爺ちゃんを『あの子』って……。あー、それでさ、エルフの髪って貴重品なの?」
「ふむ、そうですね。わたくしから見たら頭にたくさん生えているものですが、丈夫なのと……、ふふ、手前味噌で恐縮ですが美しいからと求められることが多いですね。ルルさんも夢中でしたし」
「なるほどねぇ」
「せっかくですから、トールさんにも差し上げますよ。髪だけ受け取っても困るでしょうから、弓にしてお贈りしましょう」
「弓?」
「ええ、わたくしの髪は丈夫なので束ねて弓の弦にもできるのです。わたくしが使っている弓も自前の髪で作ったのですよ」
「な、なんかすごいね。ただ毎日一緒にいるのにわざわざ髪を貰うのも悪いな」
「ふふふ。これは友好の印ですから」
「うーん、なら期待しておこうかな。弓とか今まで触ったこともなかったけど、せっかくだし教えてもらおうか」
「ええ、ぜひ。さて、これでいかがでしょうか?後ろはこのように」
「うん、完璧。リーフに頼んで良かったよ。頭が軽くなった!ありがとう!」
「ふふ、喜んでいただけて光栄です」
「さて、オリサお待たせ。帰ろうか」
「ご、ごめん!ちょっと待って!トーゴーさんが敵に捕まっちゃって大変だから!」
「静かだと思ったら、ずっと漫画読んでたんかい」
「ここには定期的に訪れるでしょうから、お掃除しながら待ちましょうか」
「そうだね」
「うひゃっ!な、何だいまの!?」
「うふふ。わたくしの髪です。束ねた髪の先で首筋をくすぐりました」
「案外茶目っ気あるね」
「ふふ、失礼しました」
「いいけどね」
「みなさんと過ごしていると気分が若返ります」
「たしかに柔らかくて触り心地の良い髪だったなぁ」
「ありがとうございます」
「あ、ちなみにさ、流石のリーフでも短剣で髪を切ったりはしないよね?」
「ええ、もちろんです。ハサミがあるのに短剣を使うはずがありません」
「だ、だよね。リーフ、あの、リーフ?なんで俺の顔をペタペタ触ってるの?」
「ふふ、せっかくこのような空間にいるのですから、この剃り忘れの鬚髯も処理して差し上げようかと」
「しゅ、しゅぜん……?」
「どうぞ、今一度おかけください。当然、自分でしたことはありませんが、こちらの短剣で綺麗に剃って差し上げます」
「ごめん、あの、そういう意味で短剣の話を出したわけじゃないんだ!え、遠慮しとくよ!髭もちゃんと毎日剃るから、短剣を持って近づかないでくれ!リーフ、なぁ!無精髭が気になったなら自分で剃るし、リーフ!」
「ふふふ、遠慮なさらず。うふふふ」
「ひゃぁぁぁぁぁ!!」
・・・・・・・・・・・・
「おまたせー!トール、サッパリしたね。いいね、いいね。あ、じょりじょりの髭も剃ったんだ。いい感じじゃん!」
「どーも……」
「どしたの?」
「お前、相当集中して読んでたんだな」
「うん!面白かったよ!トーゴーさん全然喋らないけどかっこいいよね!最後のページで『ズギューン!』って撃って何も言わないで去って行くところとかさ!」
「そう……、良かったよ……」
お茶の準備のため一足先に帰ったリーフを追って、俺たちは床屋を後にした。
これから髭を剃り忘れたりしないよう気をつけよう。
心にそう誓った。
短編3「リーフwith刃物」
完