短編3「リーフwith刃物」part5
「おじゃましまーす。って言っても誰もいないけど」
「普段はあまり気にされていない様子ですが、この建物に入る際は少し緊張されていますね」
わかるか。
「家のすぐ近くだから、小さい頃からここでしか髪を切ったことないんだよね。本当によく知ってるお店だから、知り合いの家に勝手に入る気分、あ、事実そうか。そういうわけで、久しぶりに緊張したよ」
子供の頃から通った店に勝手に入るのは、なんとも申し訳ない気分になった。
「仕方ないって。なんか本がたくさんある」
「順番を待ってる人が読むために、床屋って漫画とか雑誌がたくさんあるんだよ」
「へー。それもサービスの一つなのかな」
オリサはそういうと漫画の置かれた棚に近づいていった。
「ハサミがいろいろありますね。ふむ、よく手入れされているようですし、馬の立髪を切る際に使用しているものとそこまで変わらないようですので問題ないと思います。ああ、すみません、トールさんの髪を馬と並べるのは失礼ですね」
本当に、丁寧ないい奴なんだがなぁ。
「いいよ、気にしないで。その様子なら腕前は期待していいね」
「痛み入ります。これは霧吹きといいましたか。髪を濡らすのですね。こちらのハサミは片側が櫛のような形状ですね」
「梳きバサミって言って、髪を半分ぐらい残して切るんだよ」
「なるほど。カミソリはお顔用ですね。ということは、一緒に置いてある道具も同様のもの。大体わかりました。こちらもわたくしが?」
「あー、これは朝剃り忘れただけだから気にしないで。明日の朝まとめて剃るよ。学校がないとつい忘れちゃうんだよね」
「承知しました。道具の確認は問題ありません。どうぞお掛けください。さて、どのようになさいますか?」
そういえばこの店で頼む時は『いつも通りで』の一言だった。なんと言おうか。一番最初はなんと言ったんだっけ。
「あー、説明するの難しいな。全体的にそのまま短く……かな?」
説明になってねぇ。自分で悲しくなるわ。
「ふむ、耳はどのくらい出しましょう?全て出すとか、半分くらい出すなどありますが」
「耳……、あんまり考えてないなぁ。んー、半分くらいかな」
「承知しました。でしたら、そうですね。おおよそ3センチほど切ればよろしいかと。初めてお会いしたときのような長さということですね」
「すごいね、よろしく頼んだよ」
「はい、お任せください」




