短編3「リーフwith刃物」part1
重い。
だいぶ重い。
頭が重い。
といっても昨日飲みすぎたわけではない。そもそも酒は飲んだことがない。
ここ最近、気持ち程度頭が重い。
理由は極めて単純、髪が伸びすぎたから。最後に散髪したのは一月末ごろだったか。二月初めにこの環境になり、今は四月の頭。それなりに髪の伸びが速いので散髪の頃合いは既に過ぎ、人生で一番長くなっている。いつもはシャンプーが1プッシュで十分なのに2プッシュ必要になったあたりで気付いてはいたのだが放置してしまった。さすがに邪魔になってきたので切りたいのだが、我が家にそのスキルを持つ人物はいるのだろうか。
あまり期待できそうにないけど、ちょっとオリサに聞いてみようか。
「オリサ、ちょっといいか?」
昼食を取りリビングのソファーで日課の三十分仮眠も終え、背伸びしながら大きく口を開けるオリサに話しかけた。猫のようだな。
「ふぁい、なに?」
あくびしながら答えたので眠そうな話し方だが、熟睡せずに起きたので常盤色の目はしっかり開いている。
「オリサって髪切れる?」
「ペイパー?」
「ヘアー」
異世界人が日本人的なギャグを言っている。
「できないなぁ」
「ムリかぁ」
「髪切りたいの?」
「ああ、だいぶ伸びたから、頭が重くてさ」
「あー、確かに初めて会ったときに比べるとモワッとしてるね。しかもお髭剃ってないから今日のトールは老けて見えるよ」
「悪かったな。明日の朝剃るよ」
「リーフちゃんならできるんじゃない?馬の立髪を揃えたりもしてると思うし」
実は散髪したいと思ったとき最初に考えたのがリーフに頼むことだった。だが、俺はオリサを頼った。
「もちろん、最初にそれを考えたんだよ。リーフなら難なくやってくれそうだなって思うし」
「んじゃ、なんであたしに聞いたの?」
「オリサ、リーフっていい奴だよな?」
今更確認する必要ないことだが、一応確認する。
「は?うん、リーフちゃんもルルちゃんもすごく親切だよ。それがどうしたの?」
「俺もそれはよくわかってる。たださ、髪を切るってことは自分の後ろに刃物を持った人が立つわけだよな」
「うん。……あぁ、うん……」
俺の言わんとすることが伝わったらしい。
「刃物を持ったリーフってめちゃくちゃ怖くない?」
「怖い。加工場で大笑いしてたの、今もたまに夢に見る」
「だろ!?あの場にいたお前はわかってくれるだろ?包丁の親玉みたいなの持って『お肉です、お肉です、あはは』とか言ってたのマジで怖かったじゃん?危害を加えてくるとは思えないけど、でも怖いもんは怖いんだよ……。だからオリサに聞いたってわけ」
「うーん、気持ちはよくわかるけど、あたしはできないなぁ。ごめんね」
「あ、いいのいいの。面倒だからバリカンで坊主にしようかな」
「あの機械でガーって短くするやつだっけ?神様にちょっと毛が生えた感じになるのか。似合わないと思うからやめな」
似合わないか。まぁ最終手段と思ってるからいいや。
「ルルちゃんにも聞いてみたら?」
「そうだな。ちょっと声かけてみるか」
俺たちは家を出てルルの工房へ向かって歩き出した。ルルも無理なら放牧場にいるであろうリーフを頼ろう。




